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保育士の残業代が出ない理由とは?未払い分を請求する方法と事前準備を解説
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「残業しているのに残業代が出ていない…」という状況の方もいるのではないでしょうか。保育現場では、持ち帰り仕事や残業代制度の誤った認識などが原因で、残業代が正確に支払われていない場合があります。 この記事では、保育士の残業代が出ない原因や、未払い分の請求の仕方を詳しく解説します。また、残業代の計算方法も紹介するので、適切な待遇を受けるための参考にしてみてください。
目次
保育士の残業代が出ない状況になる原因とは
保育士の残業代が支払われない状況には、「持ち帰り仕事は残業として認められにくい」「職場が労働時間を正しく管理していない」など、いくつかの原因があります。残業代が出ないことで、保育士の労働意欲が低下したり、離職につながったりする恐れもあるでしょう。以下では、残業代が出ない状況を引き起こす主な要因について解説します。
持ち帰り仕事を残業として扱わない慣習がある
保育現場では、保育計画の作成や園のイベントで必要なグッズの制作などを自宅に持ち帰ることも珍しくないようです。持ち帰り仕事に対して保育園が時間外労働と認識しない場合、サービス残業になってしまい、残業代が支払われないという問題が生じます。
保育士の業務はどのようなものであっても、勤務時間内に行うのが基本です。ただ、持ち帰り仕事が当たり前になってしまうと、職場に意見を言いづらい保育士もいるでしょう。
労働時間が正確に管理されていない
保育施設によっては、保育士の労働時間の管理が適切に行われていないことがあります。タイムカードや勤怠システムといった勤務時間を記録する体制が整っていない職場の場合、自己申告制や概算で管理されているケースも少なくありません。
おおまかな時間管理によって実際の労働時間とズレが生じると、残業代が正しく計算されない事態が発生してしまうようです。
変形労働時間制やみなし残業制度の残業代が誤認識されている
保育園によっては、変形労働時間制やみなし残業制度が導入されていることもあります。これらの制度は、柔軟な勤務形態を可能にするというメリットがある一方、残業代の計算方法が複雑になりやすいというデメリットがあります。
制度を正しく運用するには、職場と保育士の双方が内容をしっかり理解することが必要です。。認識が不十分だと、「そもそも何時から残業代が出るのか把握できていない」「みなし残業を超えた分の残業代が支給されない」といった事態が起きてしまいます。
保育士の職場で残業が発生する理由
保育士の職場では、いくつかの要因により残業が発生します。残業が常態化すると、保育士の心身の健康に悪影響を及ぼし、仕事への意欲が下がる恐れもあるでしょう。以下では、保育現場で残業が起こる主な理由をまとめました。
人手不足のため仕事量が多い
保育現場で残業が発生する原因の一つが、慢性的な人手不足です。こども家庭庁の「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」によると、令和7年1月時点の全職種の有効求人倍率の平均が1.34倍であるのに対して、保育士は3.78倍であり人手不足なことが分かりました。
保育士の数を十分に確保できていない状態のため、一人あたりの仕事量が増加しています。たとえば、行事の準備や片づけなど、本来なら複数人で分担すべき業務を一人で担当する場面も多いでしょう。その結果、勤務時間内に仕事が終わらず残業が発生してしまいます。
出典
こども家庭庁「保育」(2025年4月24日)
事務作業もあり退勤時間までに業務が終わらない
保育士の仕事は、子どもたちの保育だけではありません。保護者向けの書類作成や行政への対応、備品の発注などさまざまな事務作業も含まれています。事務作業は園児が帰った後に行うことが多いため、忙しい日は退勤時間を超えてしまうでしょう。
また、保育中は子どもたちの衛生面や安全面に集中する必要があるため、事務作業の時間を確保するのが難しい状況です。日中に手の空いた時間があっても、保護者向けの連絡帳を記入する作業で終わってしまうこともあります。
ほかの職員より先に退勤しづらい雰囲気がある
保育園というチームワークを重視する職場環境において、自分だけが先に帰ることへ後ろめたさを感じる保育士も少なくありません。退勤間際にほかの保育士が忙しそうだったり困っていたりするとき、フォローに入っていたら退勤時間を過ぎていたということもあるでしょう。
また、「子どものため」という使命感から、必要以上に仕事を抱え込んでしまい、定時に終わらず残業につながることも考えられます。
保育士の残業代が出ないのは違法である
支給されるべき保育士の残業代が支払われないことは、違法行為です。労働基準法の「第三十七条」では、法定労働時間を超えて働いた場合、割増賃金を支払うことが義務付けられています。職種問わず、保育士も例外ではありません。
たとえば、保育園での事務作業や保護者との面談などを勤務時間外に行った場合も、労働時間として認められます。雇用側は持ち帰り仕事やサービス残業として扱わず、残業代を支払わなければなりません。
残業代が未払いになると、職場に不満や不信感を抱く保育士もいるでしょう。その結果、保育の質の低下や保育士の退職につながることも考えられます。保育士が安心して長く勤務するためには、適切な残業代の支給が不可欠です。
出典
e-GOV法令検索「労働基準法」(2025年4月24日)
残業代が出ない保育士が未払い分を請求する方法
未払いの残業代をもらうには、「就業先に直接請求する」「労働基準監督署に相談する」といった方法があります。どちらの方法を選ぶかは、状況に応じて判断しましょう。それぞれの方法について詳しく説明します。
勤務先の保育園に直接請求する
まず、勤務先の保育園に直接請求する方法があります。この方法は、園と良い関係を保ちながら問題解決を図れるのが特徴です。
まずは、残業時間の記録を整理し、未払い分の金額を計算します。次に園長や管理者と話す場を設けて、丁寧に状況を説明してください。その際、労働基準法の規定を引用して法的根拠を提示することも効果的です。
ただし、この方法は園側の理解と協力が得られる場合にのみ有効です。職場によってはスムーズに対応してもらえない可能性も考えられるため、慎重に対応を進めることが重要です。
労働基準監督署に申告する
勤務先に請求しても状況が変わらない場合は、労働基準監督署に申告しましょう。労働基準監督署は労働者の権利を守る行政機関であり、無料で相談や申告を受けてくれます。より公的な対応を求める場合に適した請求方法です。
申告の際は、残業時間の記録や給与明細などの証拠を用意しましょう。監督署は申告を受けて調査を行い、法令違反が認められれば園側に改善を求めます。労働基準監督署に相談するメリットは、専門家のサポートを得られることと、匿名での申告が可能なことです。ただし、手続きに時間がかかる場合もあるため、粘り強く対応する必要があります。
保育士が残業代を請求するために準備しておくこと
保育士が残業代を請求する場合、残業代が発生する業務を正確に把握し、証明となる書類やデータを残す必要があります。そのためには、残業代の計算方法を正しく理解することも重要です。ここでは、労働基準法に基づいた正しい計算方法を紹介します。
残業代が発生する業務を確認しておく
保育士が残業代を請求するには、まずは残業代が発生する業務内容を把握することが重要です。園児の保育や保護者の対応、環境整備などが該当します。また、職員会議や研修参加、行事の準備なども、会社の指示によって行われる場合は残業として認められます。
職場の上司や園長と、残業に該当する業務について話し合うことも大切です。互いに認識を合わせることで、残業代の未払いを防げるでしょう。日ごろから自分の労働時間と業務内容を意識し、適切に管理することが重要です。
残業代の証明となる書類やデータを残しておく
残業代請求の際に重要となるのが、残業の事実を証明する書類やデータです。まず、タイムカードや勤務表は労働時間の証拠となります。出勤時間と退勤時間が正確に記録されているか、日々確認してください。また、業務日誌にも具体的な作業内容と時間を記入しておくと良いでしょう。
上司からのメールや指示書も重要な証拠になります。たとえば、「今日は退勤後も残って書類作成をお願いします」といったメールは、残業の指示があったことの裏付けとなります。証拠になりうるデータは、定期的にバックアップを取っておくのがおすすめです。
残業代の計算方法を把握する
残業代を請求するには、正しい計算方法の理解が必要です。まずは、自分の基本給と所定労働時間を確認しましょう。労働基準法の「第三十七条」を参考に、残業代の割増率を以下にまとめました。
法定時間外労働は25%以上
月60時間を超えた法定時間外労働は50%以上
深夜労働(22時~5時)は25%以上
休日労働は35%以上
厚生労働省の「しっかりマスター労働基準法」によると、残業代の計算方法は、「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間×割増率」となります。1時間あたりの基礎賃金は、基本給を1ヶ月の労働時間で割った額です。たとえば、基本給が26万円で月の所定労働時間が160時間の場合、26万円÷160時間=1,625円になります。こちらをもとに、残業代の例を紹介します。
30時間の法定時間外労働をした場合→1,625円×30×1.25=約6万937円
8時間の休日労働した場合→1,625円×8×1.35=1万7,550円
また、変形労働時間制や裁量労働制など、特殊な労働時間制度がある場合はそれぞれの計算方法が異なります。自分の雇用形態や労働条件をよく確認し、正しい計算方法を把握しておきましょう。
出典
e-GOV法令検索「労働基準法」(2025年4月24日)
厚生労働省「しっかりマスター労働基準法」(2025年4月24日)
残業代の未払いが改善されないなら転職するのも1つの手
残業代の未払いが続く職場環境は、保育士にとって大きなストレスとなります。園長や管理者と話し合い、改善を求めることが大切ですが、状況が変わらない場合は転職を考えても良いでしょう。
厚生労働省の「保育士の働く環境は?3つの改善」に記載があるように、給与の改善や、ICTの活用で業務を効率化している保育園も増えているようです。正しい労務管理がされている職場を見つけることで、より充実した保育士生活を送れますよ。
転職を考える際は、自分に合った働き方を考えたうえで求人を探しましょう。面接時には労働条件について率直に質問することをおすすめします。また、転職エージェントに相談すると、希望条件に合った求人を紹介してもらえたり、職場の詳細情報を聞けたりするので利用してみると良いでしょう。
出典
厚生労働省「保育士の働く環境は?3つの改善」(2025年4月24日)
「保育士は残業代が出ない?」と不安な方によくある質問
ここでは、「残業代がちゃんと出るか不安…」という保育士によくある質問を、Q&A方式で紹介します。
保育士のサービス残業は当たり前なのでしょうか?
保育士が残業したときは、職場は保育士に残業代を支給する義務があります。しかし、人手不足や職場の慣習などが原因で、サービス残業が黙認されている園も残念ながらあるようです。
園児の送迎時間が延びたり書類作成に時間が掛かったりすると、残業自体はどうしても発生してしまいます。しかし、サービス残業は当たり前と考えて良いものではありません。サービス残業が発生している場合は未払いの残業代を請求する権利があるので、これまでの労働時間と労働基準法を根拠に、上司と話し合う機会を作ってください。
保育士は一般的に残業で何時まで働きますか?
保育士の残業時間は、勤務先や状況によってさまざまです。一般的には、保育園の閉園時間から1〜2時間程度が多いようです。残業の頻度や時間は、園の方針や保育士の経験年数、担当クラスなどによっても変わってきます。転職の際は求人情報を十分にチェックしましょう。
保育士の残業時間は平均でどれくらいですか?
政府統計の総合窓口の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると保育士の超過実労働時間数は3時間となっていますが、園によって差があるといえます。月に10〜20時間の残業をする職場もあるでしょう。残業時間は保育士の経験や時期に左右される場合もあります。就職や転職の際に気になる場合は、新人の平均的な帰宅時間や忙しい時期について、事前に確認しておくと安心でしょう。
出典
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2025年4月24日)
まとめ
保育士が残業した場合、職場は残業代を適切に支給する義務があります。しかし、持ち帰り仕事や勤務時間外の業務に残業代が支払われないと、「これってサービス残業なのでは…」と悩む保育士も少なくありません。
「残業代が出ない」とお悩みの方は、直接職場に相談して請求するか、労働基準監督署に申告しましょう。未払いの残業代を請求する際は、残業したことを証明する書類やデータを集めてください。請求しても状況が変わらない場合は、転職を検討することをおすすめします。
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執筆者

「レバウェル保育士」編集部
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