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保育士不足はなぜ起きている?原因や改善するための取り組みを解説
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昨今のニュースを見て「保育士は不足しているのか」と気になっている方もいるのではないでしょうか。現状、保育士不足は深刻化しており、人材の確保が急務とされています。 この記事では、保育士不足の現状や原因、改善するための政策を解説します。保育士不足の解消を目的とした自治体の取り組み、保育士ができることなどを紹介するので、ぜひチェックしてください。
目次
保育士不足の現状とは
保育業界では、保育士不足が続いています。ここでは、保育士の有効求人倍率や勤続年数、潜在保育士の割合から保育士不足の現状を解説します。
保育士の有効求人倍率は約3倍
こども家庭庁の「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」によると、2025年(令和7)年1月の保育士の有効求人倍率は3.78倍です。この有効求人倍率は、1人の保育士に対して3つ以上の求人があることを意味しています。つまり、保育士が不足しているという状況です。有効求人倍率が1倍を超えると人材不足とされるのが一般的ですが、保育士はその基準を大きく上回っており、保育士不足は深刻化しているといえるでしょう。
出典
こども家庭庁「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」(2025年7月25日)
保育士の勤続年数
保育士の早期離職も、保育士不足における課題の1つです。厚生労働省の「保育士の就業の実態 (p.2)」によると、50.7%の保育士が5年未満で退職しており、新人が定着する率は低い傾向にあります。
出典
厚生労働省「保育人材の確保」(2025年7月25日)
潜在保育士の割合は約61.4%
保育士資格を持ちながらも、保育の仕事についていない人を潜在保育士といいます。厚生労働省の「令和4年厚生労働白書 (p.57)」によると、保育士の登録者数は167万3,000人、社会福祉施設などに従事している保育士の数は64万5,000人です。これをもとに計算すると、潜在保育士は102万8,000人となります。つまり、約61.4%の人が潜在保育士であり、資格を保有しているのに「保育士として勤務していない人の方が多い」のがわかります。
出典
厚生労働省「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(本文)」(2025年7月25日)
保育士が不足している原因
保育士が不足している背景には、保育士として働くことに不安を感じていたり、給与水準が低さ、業務負担の大きさなど幅広い要因が絡んでいます。ここでは、保育士が不足している原因を解説します。
保育士として働くことに不安を感じている人が多い
保育士資格を取得しても、実際に保育士の仕事に就くことに不安を感じる人も少なくありません。一般社団法人 全国保育士養成協議会の「保育士試験合格者の就職状況等に関する調査研究 研究報告書 (p.48)」により、保育士として働くことに不安を感じる理由を表にまとめました。
労働条件・労働環境 | 31.8% |
保育・子育て・実習などの経験不足 | 24.3% |
年齢・体力 | 12.6% |
参照:一般社団法人 全国保育士養成協議会「保育士試験合格者の就職状況等に関する調査研究 研究報告書 (p.48)」
労働条件・労働環境の不安は、保育士の長時間労働や給与の低さ、職場の人間関係が影響していると考えられます。保育の経験不足による不安は、保育実習から期間が経っていたり、子どもと関わる機会が少なかったりすることから自信のなさが表れているのかもしれません。年齢・体力の不安は、保育士の仕事が体力的にハードなことや職場の年齢層とのギャップが要因でしょう。
保育士として働くことに対する不安を少しでも軽減できれば、保育士不足の解消につながる可能性があります。
出典
一般社団法人全国保育士養成協議会「調査研究事業」(2025年7月25日)
保育士の給与が低い
保育士の給与水準の低さも、保育士不足の要因の1つです。厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」より、保育士と民事営業所(国及び地方公共団体以外の事業所)の産業計の給与・賞与・年収を以下の表にまとめました。
きまって支給する現金給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 想定される年収
(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額) | |
保育士 | 27万7,200円 | 74万1,700円 | 406万8,100円 |
民営事業所(国及び地方公共団体以外の事業所)の産業計 | 34万6,700円 | 90万9,000円 | 506万9,400円 |
参照:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」
保育士の平均年収は406万8,100円、民事営業所(国及び地方公共団体以外の事業所)の平均年収は506万9,400円となっています。このことから、保育士の平均年収は民事営業所の産業計よりも、100万円ほど低い傾向にあります。
保育士は国家資格を持ち、専門的な知識やスキルを必要とする仕事でありながら、ほかの職種と比べて給与水準が低い傾向にあるといえます。保育士の仕事に魅力を感じても、給与水準が低い傾向にあるために経済的な理由でほかの職種を選ぶ人もいるでしょう。
出典
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(2025年7月25日)
業務量の負担が多い
保育士は日々の保育業務に加え、事務作業や行事準備、保護者対応など多岐にわたる業務を行う必要があります。保育現場では、子ども一人ひとりの成長や安全を見守る必要があり、常に気を抜けません。保育士が不足している現状では、保育士1人当たりが担当する業務や負担が増え、残業や持ち帰り仕事が発生する場合も。保育士は多数の業務を抱えており、負担が大きいことも離職率が高い要因の1つといえるかもしれません。
希望の働き方を実現しにくい
保育士のなかには希望する働き方をすることが難しく、退職を選ぶ方もいるようです。たとえば、保育士の仕事と子育てを両立したい人が「短時間勤務で働きたい」と思っても、人手不足の状況で希望が通らないことがあります。また、保育士はシフト制が一般的なため、希望する時間帯に勤務できないという悩みを抱える方もいるでしょう。保育士は土曜出勤をする場合もあり、家庭との両立が難しいと感じる方も少なくありません。
子どもの命を預かるプレッシャーがある
保育士には「子どもの命を守る」という重要な役割があります。保育園内では子どものケガや誤飲、急な体調不良など保育士が予測できない事態が起こる場合があり、常に緊張感を持って仕事に取り組まなければなりません。乳児クラスを担当する保育士は、一瞬の油断が命に関わる事故につながる可能性もあり、「自分のミスで事故を起こしたらどうしよう」というプレッシャーがかかります。保育園で事故があった場合、保育士の責任が問われる場合もあり、そのリスクを背負いながら働くことに不安を感じる人も少なくないでしょう。
保育士不足を改善するための政策
保育士不足を解消するため、保育士の処遇改善加算や保育士の確保プランなどの政策が行われています。ここでは、保育士不足を改善するための政策を紹介します。
保育士の処遇改善加算
保育士の処遇改善加算とは、保育士の賃金向上や労働環境の改善を目的として設けられた制度です。保育士の処遇改善加算は、保育士の給与水準を引き上げ、保育士の定着率向上と人材確保を目指しています。この制度は、一定の要件を満たした保育施設に国から補助金を支給し、補助金を使って保育士の賃金を引き上げるという仕組みです。
こども家庭庁の「令和7年度以降の処遇改善等加算について (p.14)」によると、処遇改善等加算には「基礎分」「賃金改善分」「質の向上分」の3区分があります。各区分の詳細は以下の表のとおりです。
区分3 | 副主任保育士や職務分野別リーダーなど、技能・経験のある職員の賃金改善のための加算(質の向上分)
算定額により加算/4万円/5,000円×算定職員数 |
区分2 | 職員全体の賃金改善・ベースアップに使われる加算(賃金改善分)
率により加算/平均経験年数により6%又は7%/9,000円×算定職員数を率に換算 |
区分1 | 経験年数が長い職員が在籍する職場や、キャリアアップ・賃金改善の仕組みを作っている職場を評価して支給する加算(基礎分)
率により加算/平均経験年数により2%~12% |
参照:こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について (p.14)」
令和7年3月までは、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの3種類の加算が運用されていましたが、事務手続きの簡素化などの観点から令和7年4月より、「処遇改善等加算」に一本化されました。これにより加算の申請ハードルが下がるため、より多くの保育士が処遇改善の恩恵を受けられるようになると期待されます。
出典
こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」(2025年7月25日)
保育士確保プラン
保育士確保プランとは、待機児童問題の解消を目的として、保育士の人材育成や再就職支援などを強化するために策定されました。厚生労働省の「保育士確保プラン」の公表」によると、このプランでは、以下の取り組みを進めています。
保育士試験の年2回実施の推進
保育士に対する処遇改善の実施
保育士養成施設で実施する学生に対する保育所への就職促進を支援
保育士試験を受験する者に対する受験のための学習費用を支援
保育士・保育所支援センターにおける離職保育士に対する再就職支援の強化
福祉系国家資格を有する者に対する保育士試験科目等の一部免除の検討
これらの取り組みを総合的に推進することで、保育士不足と待機児童問題の解消を目指しています。
出典
厚生労働省「保育士確保プラン」の公表」(2025年7月25日)
保育士不足を解消するために自治体が実施している取り組み
自治体によっては、保育士不足を解消するための取り組みを行っている場合があります。ここでは、保育士不足を解消するために自治体が実施している取り組みを紹介します。
東京都三鷹市が行っている取り組み
三鷹市役所の「保育人財の確保」によると、東京都三鷹市では保育士等キャリアアップ補助事業を行っています。保育士等キャリアアップ補助事業は、保育士の専門性向上と働きがいのある職場環境の整備を目指し、キャリアアップに向けた取り組みに必要な費用を一部補助しています。
ほかにも、三鷹市では保育従事職員宿舎借り上げ支援事業を行っているようです。この事業では、保育士の定着を促進するため、対象の保育施設が職員のために借り上げた宿舎の費用を三鷹市が支援しています。
出典
三鷹市役所「保育人財の確保」(2025年7月25日)
大阪府大阪市が行っている取り組み
大阪市役所の「大阪市内で保育士として働く方を支援します」によると、大阪府大阪市では潜在保育士への就労奨励金を支給しています。この取り組みによって、大阪市保育士・保育所等支援センターを通じて民間保育施設に就職した保育士は、奨励金として5万円を受け取れます。この奨励金の支給は、保育士資格を持ちながら保育現場を離れている潜在保育士の復職を促進し、人材を確保するのが目的です。
出典
大阪市役所「大阪市内で保育士として働く方を支援します」(2025年7月25日)
鹿児島県鹿児島市が行っている取り組み
鹿児島市役所の「あなたの“保育愛(オモイ)”を鹿児島市で!」によると、鹿児島県鹿児島市では、民間保育士等処遇改善補助事業を行っています。この事業は、鹿児島市内の保育所等に勤務する保育士の給与に、上乗せの補助を行う取り組みです。常勤保育士は月額2万円、非常勤保育士は月額で上限1万円の上乗せ補助を行っています。
出典
鹿児島市役所「あなたの“保育愛(オモイ)”を鹿児島市で!」(2025年7月25日)
人材不足の現状において保育士にできること
保育士不足が続く現状では、現場で働く保育士一人ひとりができることを意識し、より良い環境づくりに取り組むことが大切です。ここでは、保育士不足を改善するために保育士にできることを解説します。
セルフケアに注力して長期活躍する
人材不足の中で保育士として働き続けるためには、自分自身の健康を守ることが重要です。保育士の仕事を終えた後や休日に十分な休息をとり、適度な運動を心がけると体力を維持しやすくなります。保育士は腰や肩に負担がかかる業務もあるため、ストレッチや姿勢の見直しを意識するのも効果的でしょう。保育士のストレスを抱え込み過ぎないよう、信頼できる同僚や友人に悩みを相談したり、趣味の時間を確保したりすることが大切です。心身ともに適切にセルフケアすると、保育士として長く活躍できる可能性が高まるでしょう。
保育士同士で協力して業務を進める
保育の現場では、チームワークが重要です。日頃から保育士同士で相談しやすい関係を築いておくと、業務の進め方を柔軟に調整できるでしょう。保育士の得意分野をそれぞれ活かして役割分担すると、負担を軽減できる可能性もあります。自分の業務が立て込んでいるときは、無理せず周囲に助けを求めるのも大切です。
保育士同士で「困ったときはお互い様」という意識を持って支え合うと、チーム全体の働きやすさが向上するでしょう。保育士が不足しているなかで一人ひとりの負担を減らすためにも、お互いに効率的に業務を進めることが求められます。
後輩や新人が働きやすい環境づくりに努める
新しく入ってきた保育士が安心して働ける環境を整えることは、保育士不足の解消にもつながります。先輩の保育士は、新人がわからないことを聞きやすい雰囲気を作る必要があります。「何か困っていることはないか」とこまめに声をかけたり、業務の流れを共有したりすると、新人保育士がスムーズに仕事を覚えやすくなるでしょう。
新人保育士がミスをした際は、失敗したことを責めるのではなく、「次にどうしたら良いか」を一緒に考える姿勢を持つのが重要です。保育士の仕事は経験を積んで成長していく部分もあるため、新人が安心して挑戦できる環境を作ることが求められるでしょう。職場全体で「みんなが働きやすい環境を作る」という意識を持つと、新人だけでなく、すべての保育士が快適に働ける職場環境が整備できる可能性があります。
保育士不足に関してよくある質問
保育士不足に関してよくある質問に、Q&A形式で回答します。
保育士不足の解決策は?
保育士不足を解消するには、保育士の給与水準の改善や働きやすい環境を整備するのが大切です。また、潜在保育士の復職や保育士を目指す人への支援も効果的でしょう。現在、国や自治体によって、保育士不足を解消するための取り組みが行われています。国の政策や自治体の取り組みは、本記事の「保育士不足を改善するための政策」「保育士不足を解消するために自治体が実施している取り組み」を参考にしてください。
保育士不足によって起こる問題や影響は何が挙げられますか?
保育士不足が深刻化すると、保育士や子どもたちにだけでなく、社会全体に影響を及ぼす可能性があります。保育士を十分に確保できなければ、保育園に受け入れる子どもの人数も減少し、待機児童の問題が発生するでしょう。子どもを預けられない家庭は、仕事と育児の両立が難しくなり、保護者の働き方が制限されます。保育士が担当する子どもの数が増えると、一人ひとりに十分な関わりを持つことが難しくなり、保育の質の低下につながるかもしれません。業務負担が大きい状態が続くと、保育士の離職率が高まる可能性も。そしてより保育士が不足するという悪循環が生じます。このように、保育士不足の問題は広範囲に影響を及ぼすため、早急な改善が求められている問題です。
まとめ
保育士不足が深刻化している現状の背景には、保育士の労働環境や給与の低さ、業務負担の大きさなどがあります。そのため、保育士になることを不安に感じる方や、保育士として働いても早期離職してしまう方が多いのが保育業界の現状です。
国や自治体では、保育士の処遇改善や潜在保育士への支援を進めており、保育士の人材確保に向けた取り組みを行っています。保育現場で働く保育士は、セルフケアに努めながら働きやすい環境を作り、新人が定着しやすい仕組みを整えると保育士不足の解消に貢献できるでしょう。
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執筆者

「レバウェル保育士」編集部
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