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幼稚園教諭の残業代が出ない理由とは?労働環境の実態と改善方法を解説
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幼稚園教諭の中には、「残業代が出ないのは仕方のないこと?法律上問題ないの?」と悩んでいる方もいるかもしれません。実際、幼稚園での残業代未払いは業界全体の大きな課題となっています。この記事では、幼稚園の残業代が出ない理由や、残業代を請求するためのポイントを解説します。労働基準法や給特法の概要にも触れるので、状況改善に向けたヒントにしてみてください。
目次
幼稚園の残業代が出ない理由とは?
幼稚園教諭の中には、決められた労働時間を超えて働いているにもかかわらず、残業代が適切に支払われていない人も少なくありません。なぜ、そのような事態が起きるのでしょうか。ここでは、残業代が出ない主な理由について解説します。
変形労働時間制で残業時間が曖昧になっている
幼稚園の中には、「変形労働時間制」が正しく運用されておらず、労働時間の管理がずさんな場合があります。変形労働時間制(1年単位)とは、繁忙期には勤務時間を長くし、閑散期には短くすることで年間を通じて労働時間を調整できる制度です。
一見すると柔軟で合理的な仕組みに見えますが、実際には残業時間が不透明になったり、残業代の支払いが曖昧になったりするなどの課題もあります。変形労働時間制を採用している職場の中には、残業申請の仕組み自体が整っていない所もあるようです。
出典
厚生労働省「変形労働時間制の概要」(2025年5月21日)
サービス残業が慣習として定着している
一部の幼稚園では、「子どものためだから仕方がない」という考え方が根強く残っており、サービス残業が当たり前になっている職場もあります。
献身的な働き方が当然とされる雰囲気では、いわゆる「やりがいの搾取」が起きやすく、泣き寝入りしてしまう幼稚園教諭も少なくありません。こうした職場では、早く帰るための工夫や働き方の見直しも進みにくいため、過重労働が放置されやすい現状があります。
人手不足で持ち帰り仕事が常態化している
人手不足が深刻な幼稚園では、勤務時間内にすべての業務を終えるのが難しく、持ち帰り仕事を行う人もいます。持ち帰り仕事とは、書類作成や教材の準備、行事の計画など本来は園内で行うべき業務を自宅で対応することです。
こうした持ち帰り仕事は、上司の目が届きにくく、労働時間として把握されにくいため、サービス残業につながりやすい傾向があります。
経営難に陥っており残業代の支払いが難しい
私立幼稚園の中には、経営の厳しさから残業代を十分に支払えない園もあります。全日本私立幼稚園連合会の「令和5年度私立幼稚園経営実態調査報告(p.12)」によると、少子化や共働き世帯の増加による幼稚園のニーズの変化などの影響で、多くの私立幼稚園が厳しい経営状況に置かれていることが分かります。
引用テキスト
私学助成園、施設型給付園、認定こども園にとっては、これまで以上に厳しい時代となる。共働き世代の増加に伴い、特に1号認定児を多く預かる施設においては園児募集がますます厳しくなることが想定される。廃園や休園を余儀なくされている現状を踏まえ…
引用:全日本私立幼稚園連合会「令和5年度私立幼稚園経営実態調査報告(p.12)」
職場によっては、残業代を支払うと赤字に転落し、園の運営そのものが行き詰まるといった場合もあるようです。
出典
全日本私立幼稚園連合会「令和5年度私立幼稚園経営実態調査報告」(2025年5月21日)
幼稚園教諭の残業時間の平均は?
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表番号1」によると、幼稚園教諭・保育教諭の1か月あたりの平均残業時間はわずか2時間とされています。これは、統計上では日常的に残業が発生していないと判断されていることを意味します。
しかし、前述のとおり、実際の現場ではこの数値と大きな差異があるのが実情です。広島県私立幼稚園連盟の「働き方改革に向けた調査研究報告書」でも、働き方改革が幼稚園にとって重要な課題であることが示されています。
こうした状況から、幼稚園では持ち帰り仕事やサービス残業が日常的に発生しており、残業代が適切に支払われていない可能性が高いと考えられるでしょう。
出典
広島県私立幼稚園連盟「働き方改革に向けた調査研究報告書」(2025年5月21日)
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2025年5月21日)
幼稚園の残業代が出ないのは労働基準法違反?
幼稚園で残業代が出ない場合、それが法律違反かどうかは園の運営主体によって異なります。ここでは、私立幼稚園と公立幼稚園に分けて、適用される法律を見ていきます。
私立幼稚園は労働基準法が適用されるため違法
私立幼稚園で働く幼稚園教諭には労働基準法が適用されるため、残業代が支払われない場合は法律違反となります。労働基準法では、法定労働時間を超えて働いた場合、割増賃金を支払うことが義務付けられています。
たとえば、勤務時間が午前9時から午後5時までの場合、それ以降の労働には残業代として25%増しの割増賃金が必要です。さらに、夜10時以降の深夜労働には50%増しの割増賃金が支払われます。幼稚園側がこれらのルールを守らない場合、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、法律違反として罰則を科せられたりする恐れがあるでしょう。
なお、変形労働時間制などを導入している園では、労働時間の計算方法や残業の扱いが通常とは異なることもあるためご注意ください。
出典
e-Gov法令検索「労働基準法」(2025年5月21日)
厚生労働省「しっかりマスター割増賃金編」(2025年5月21日)
公立幼稚園は給特法が適用されるため例外扱い
幼稚園教諭が公立幼稚園で働く場合は「給特法」が適用されます。この法律では、時間外勤務手当の支給がない代わりに、給料月額の4%が「教職調整額」として一律に上乗せされる仕組みになっています。そのため、個別の残業代が支払われなくても、基本的に労働基準法違反にはなりません。
一方で、給特法には制度上の課題も指摘されています。具体的には、長時間労働の温床になりやすい点や、教職調整額が一部自治体で支給されていない実態があることなどが挙げられます。そのため、制度の見直しを求める動きも広がっているようです。
出典
e-Gov法令検索「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(2025年5月21日)
幼稚園で残業代が出ない場合の改善方法
幼稚園で残業代が出ない状況を改善するためには、具体的な行動を起こすことが大切です。以下の内容を参考にして、段階的に対応を考えていきましょう。
正確な労働時間を記録し職場に請求する
幼稚園で残業代が出ない場合は、自身の労働時間を正確に記録することから始めましょう。スマートフォンのメモや手帳を使って、出勤時間・退勤時間・休憩時間を毎日こまめに記録してください。持ち帰り仕事の時間も忘れずに記録することが重要です。
十分な記録が集まれば、その内容をもとに園長や事務担当者へ残業代の支払いを求めることが可能になります。話し合いの際は、自分なりの改善案も一緒に提示すると、前向きで建設的な対話がしやすくなるでしょう。
労働基準監督署や労働組合に相談する
幼稚園との話し合いで解決が難しい場合は、労働基準監督署や労働組合に相談するのも1つの方法です。労働基準監督署では、労働問題に関する相談を無料で受け付けており、必要に応じて助言・指導制度の申込みも行えます。また、労働組合に加入すれば、サポートを受けながら複数人で問題解決に取り組むことも可能です。
外部機関へ相談する際は、前述と同様に出退勤の記録をはじめ、就業規則や雇用契約書、チャットアプリの履歴など、証拠となる資料をしっかり集めておきましょう。
出典
厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(2025年5月21日)
労働環境が改善しない場合は転職を検討する
話し合いや外部機関への相談を行っても状況が改善されない場合は、転職を検討するのも選択肢の1つです。職場との交渉は大きな精神的負担につながることもあります。そのため、転職したほうが気持ちが楽だと感じる人も少なくありません。
転職を検討する際は、「幼稚園の残業はどこも同じ」と一括りにせず、職場ごとの働き方の実態をよく確認することが大切です。文部科学省の「幼稚園・認定こども園における勤務改善事例集」では、よりよい職場環境を実現するための効率的・効果的な工夫が紹介されているので、あわせて参考にしてみてください。
出典
文部科学省「幼稚園・認定こども園における勤務改善事例集」(2025年5月21日)
残業代が適切に支給される幼稚園を選ぶには
残業代がきちんと支払われる幼稚園を見つけるには、事前の情報収集が欠かせません。求人票をよく読み、「残業手当の記載があるか」「平均残業時間が示されているか」といった点に注目しましょう。
また、面接では、残業時間の把握方法や持ち帰り仕事の扱いについて、できるだけ具体的に質問することが大切です。勤怠管理の仕組みが整っている職場は、労働時間や残業代が正確に管理されている可能性が高いと考えられます。また、ICTを活用して業務の効率化や残業時間の削減に力を入れている幼稚園であれば、働きやすさの面でも期待できるでしょう。
もし、幼稚園に直接聞きづらいと感じる場合は、転職エージェントで職場の実情を聞くのもおすすめです。第三者を通すことで、職場の雰囲気や実際の働き方など、より客観的な情報を得やすくなります。
幼稚園の残業代が出ないと悩んでいる人によくある質問
ここでは、幼稚園の残業代が出ないと悩んでいる人によくある質問を紹介します。
幼稚園の勤務時間は保育士よりも長いですか?
フルタイムの場合、幼稚園教諭と保育士の勤務時間はどちらも1日8時間が基本です。また、職業情報提供サイト(日本版O-NET)「JobTag」によると、1か月あたりの平均労働時間は、幼稚園教諭が164時間、保育士が162時間となっており、大きな差はないことが分かります。
出典
職業情報提供サイト(日本版O-NET)「JobTag」(2025年5月21日)
幼稚園教諭の仕事は休憩なしが当たり前ですか?
幼稚園教諭に限らず、休憩なしの勤務は違法なため、当たり前ではありません。労働基準法では、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えることが義務とされています。ただし、現実には人手不足などの理由で、十分な休憩時間が取れない職場もあるのが実情です。
出典
e-Gov法令検索「労働基準法」(2025年5月21日)
厚生労働省「休憩時間は法律で決まっていますか。」(2025年5月21日)
幼稚園教諭にも36協定は適用されますか?
私立幼稚園の場合、幼稚園教諭にも36協定は適用されます。36協定とは、法定労働時間を超えて残業をさせる場合に締結が必要な協定のことです。この協定がない場合、残業させること自体が違法となります。ただし、公立幼稚園の場合は給特法が適用されるため、36協定の締結義務はありません。
出典
厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」(2025年5月21日)
まとめ
一部の幼稚園では、「変形労働時間制で残業時間が曖昧になっている」「サービス残業が慣習化している」「人手不足で持ち帰り仕事が常態化している」などの理由から、残業代が適切に支給されないこともあります。
残業代未払いの問題に直面したときは、自身の労働時間を正確に記録したうえで、園と十分に話し合い、改善を求めましょう。それでも状況が変わらない場合は、外部の支援機関に相談したり、転職を視野に入れたりすることをおすすめします。
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執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。