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保育士の配置基準はおかしい?現行制度や課題点、見直し予定などを解説
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保育士の中には、「国の配置基準が低過ぎる」「常に人手不足で限界」と感じている方もいるのではないでしょうか。日本の保育士の配置基準は、1948年に施行された基準が土台となっており、現場では「子ども一人ひとりに十分向き合えない」「事故やトラブルのリスクが高まる」といった切実な声が上がっています。この記事では、保育士の配置基準の問題点や現場への影響、「おかしい」と感じたときの対処法を解説します。
この記事のまとめ
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保育士の配置基準がおかしいとされるのは時代にそぐわないから
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現行制度は科学的な裏付けが曖昧で国際的に見ても手薄な状態
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2024年に一部改善されたが今後も見直しが求められる
目次
保育士の配置基準はおかしい?
保育士の配置基準については、「おかしい」「きつい」という意見が多く、長年にわたり根本的な見直しが求められてきました。2024年には、ようやく3歳から5歳児の基準が改善されましたが、保育現場からは依然として不十分との声が強く、子ども一人ひとりに丁寧に向き合える環境の実現には、さらなる引き上げが不可欠とされています。
この配置基準の問題は、現場の多忙さだけでなく、保育士の待遇に直結する構造的な問題を生んでいます。国から支給される運営費(公定価格)は、国の最低基準の人員数に基づいて算定されます。そのため、質の維持・安全確保のため基準以上の保育士を配置しても、超過分の人件費は公定価格に含まれません。その結果、保育士の給与水準を低く抑えざるを得なくなり、離職や人材不足の一因になっているのです。
出典
子ども家庭庁「1歳児の職員配置の改善」(2025年10月21日)
保育士の配置基準とは?
保育士の配置基準とは、保育士1人が担当できる子どもの人数の上限を、子どもの年齢別に定めたものです。保育士の配置基準は、保育事業の運営形態によって異なります。ここでは、認可保育園に焦点を当て、概要と制定された背景を解説します。
配置基準の概要
保育士の配置基準は、子どもの年齢が上がるにつれて、保育士1人あたりの担当園児数が増える仕組みになっています。2024年に見直しが行われ、認可保育園の配置基準は以下のとおりとなりました(2025年10月現在)。
| 年齢 | 保育士の人数 |
| 0歳児 | 子ども3人に対して保育士1人 |
| 1・2歳児 | 子ども6人に対して保育士1人 |
| 3歳児 | 子ども15人に対して保育士1人 |
| 4・5歳児 | 子ども25人に対して保育士1人 |
参照:e-Gov法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第33条2項」
この基準は、保育施設が必ず守らなければならない最低ラインとして国が定めたものです。そのため、不十分だと考える自治体や施設では、子どもの安全や保育の質を優先し、さらに手厚い人員配置で運営しているケースも多く見られます。
出典
e-Gov法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(2025年10月21日)
配置基準が制定された背景
現在の保育士配置基準は、終戦直後の1948年に施行されたものが土台となっています。1947年に保育所が児童福祉施設として位置づけられ、その翌年に「児童福祉施設最低基準」が制定されました。当時の初期基準は、1歳児以下が10対1、2歳以上が30対1と、現代の保育環境から見ると非常に手薄な配置でした。
その後、数回の改定はあったものの、2024年に実施された4・5歳児の配置基準の改善は、制度創設以来76年ぶりとなる大きな見直しでした。この事実からも、日本の保育基準が長期間にわたり、社会や子育て環境の変化に対応しきれていなかった経緯が分かります。
出典
こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」(2025年10月21日)
保育士の配置基準が「おかしい」と言われる理由
ここでは、日本の保育現場の課題をより深く理解するため、保育士の配置基準が「おかしい」と言われる背景をさらに掘り下げていきます。
社会の変化に追いついていないため
保育士の配置基準が「おかしい」とされる理由の1つは、制定から70年以上が経過し、現代の社会環境に対応できていない点にあります。基準が作られた当時と異なり、現代の保育所は、保護者支援や教育的機能の強化など、求められる役割が格段に複雑化しています。にもかかわらず、配置基準が長期間ほぼ据え置きの状態であるため、手が回らず、保育の質や安全の維持が難しいと指摘されているのです。
科学的根拠や裏付けがないため
現在の保育士配置基準が「おかしい」と指摘される理由の1つが、その基準に明確な根拠がない点です。保育士配置基準は、終戦直後に必要最低限の枠組みとして設けられた経緯があり、子どもの発達や保育の質を保証するための科学的な裏付けが曖昧なまま現在に至っています。国もこの問題を認識しており、こども家庭庁の「保育政策の新たな方向性(p3)」では、エビデンスの収集といった科学的検証が必要であるとの見解が示されています。
出典
こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」(2025年10月21日)
世界水準に達していないため
国際的に見て手薄な水準にあることも、日本の保育士配置基準が「おかしい」とされる理由です。経済協力開発機構(OECD)の加盟国と比較すると、日本の配置基準は最低レベルにあり、諸外国との間に差が生じています。先進国として子どもの権利や利益を保障する観点からも、日本の保育水準が国際的な標準に達していない現状は大きな課題であり、早急な引き上げが求められているのです。
出典
こども家庭庁「『今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)』についての意見書」(2025年10月21日)
現在の配置基準がもたらす保育士への影響
保育士1人あたりが受け持つ園児の数が多いと、どのような問題が生じるのでしょうか。ここでは、現在の配置基準が保育士にどのような影響を及ぼしているのかを見ていきます。
子どもに十分に向き合えない
保育士が「もっと子どもの気持ちに寄り添いたい」「一人ひとりの声に耳を傾けたい」と思っていても、現在の配置基準のもとでは、思い描く保育を実現しにくい状況が続いています。時間や人手に余裕がない中では、子どもの主体性を尊重したくても、一斉に行動させるような管理的な保育になってしまう場面が多いのが実情です。子どもの発達や成長に必要なことを考えるための余裕すら持てないことに、不安を抱える保育士も少なくありません。
最低限の休憩時間すら十分に確保できない
人手がギリギリの状態で運営されている園では、休憩すら十分に取れないのが現実です。忙しさのあまり、休憩どころか食事やトイレの時間さえ確保できないこともあります。たとえ休憩時間が設定されていても、子どもから完全に目を離せなかったり、事務作業や製作物の準備、会議への参加などに追われたりと、実質的に休めていないケースも少なくありません。
気づけば、1日中休む間もなく働き続け、終業後には残業や持ち帰りの仕事が待っているといった過酷な働き方が当たり前になっているのです。
事故やトラブルのリスクが増加する
配置基準が低い環境では、体を押したりひっかいたりといった子ども同士のトラブルへの対応に追われがちです。保育士の目が全員に行き届きにくくなることで、ヒヤリとする場面が増え、ケガや事故のリスクが高まります。また、防災や防犯の観点から見ても、子どもの命を守る体制が十分に整っているとはいえず、非常時への対応に不安が残るでしょう。
実際、厚生労働省の
「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて(p.5)」によると、保育士資格を持つ求職者が保育士として働きたくない理由の第1位は、「責任の重さ・事故への不安」であると報告されています。
出典
厚生労働省「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて」(2025年10月21日)
精神的な負担が大きく疲弊する
配置基準にゆとりのない現場では、保育士一人ひとりにかかる負担が大きく、心の余裕を失いやすくなります。「自分の保育は本当に大丈夫だろうか」「このままでは不適切な保育につながってしまうのではないか」といった不安を抱えながら働き続けるうちに、やりがいやモチベーションを失っていくケースも少なくありません。
現場にゆとりがあれば、新人保育士にも丁寧に関われますが、忙しさに追われる日々の中では、それすらままならないでしょう。その結果、人手不足が一層の人手不足を招き、現場の過酷さが増すという負のループに陥ってしまうのです。
2025年度以降、保育士の配置基準は見直される?
政府は2025年度以降、1歳児の保育士の配置基準を見直す方針を示しています。具体的には、現在の「1歳児6人に対して保育士1人(6対1)」という基準を、5対1へと改善する予定です。これに伴い、2025年4月からは、5対1以上の体制に改善した施設に対して、公定価格上の加算措置が導入されています。ただし、加算を受けるためには、複数の厳しい要件を満たす必要があり、実際に適用されるには高いハードルがあるのも現状です。
また、もともと1歳児の基準見直しは、4・5歳児とあわせて検討されていましたが、保育人材の確保が必要という観点から、2025年度以降へ先送りされた経緯もあります。そのため、配置基準の改善を実現するには、制度面だけでなく、保育士の確保・育成といった人的な支援も欠かせません。今後の政策動向によっては、さらなる見直しが行われる可能性もあるため、引き続き最新の情報に注目していくことが重要です。
出典
こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」(2025年10月21日)
働く施設の配置基準がおかしいかもと感じたら?
園長や管理職に相談しても労働環境が改善されず、信頼関係が崩れてしまっている場合は、外部の制度や支援を知っておくことで状況の悪化を防げるかもしれません。ここでは、職場の配置基準に「おかしい」と感じたときの対処法をまとめました。
違反の事実があれば行政機関などへ相談・通報する
職場で保育士の配置基準に違反があると感じた場合は、行政機関などに相談・通報することが可能です。過去には保育士の人数をごまかしていた園に対し、公益通報を受けた行政が抜き打ちの特別指導検査に動いた事例もあります。保育士の配置基準には、子どもが少なくなる時間帯などに要件が一部緩和される特例制度があります。これらを正しく理解したうえで、実態を示す証拠を集めて通報することが大切です。
通報者は、公益通報者保護法により不利益な取扱いを受けないよう法的に守られています。とはいえ対応には少なからず労力がかかるため、状況を冷静に見極めたうえで慎重に行動するようにしましょう。
出典
厚生労働省「保育士の現状と主な取組」(2025年10月21日)
消費者庁「通報者の方へ」(2025年10月21日)
より良い配置基準を定める自治体を探す
保育士が職場の配置基準に「おかしい」と感じたときは、勤務する自治体を変えるという選択肢もあります。前述のとおり、保育士の配置基準は全国一律ではなく、より手厚い環境を整えている自治体も少なくありません。たとえば、新潟市では、「1歳児3人に対して保育士1人」という、国の定める6対1よりも余裕のある体制が取られています。
転職を考える際は、希望する自治体のWebサイトで配置基準を確認しておくと、自分に合った職場環境を見つけやすくなるでしょう。
出典
新潟市「保育士就職支援について」(2025年10月21日)
働き方改革を推進している施設に転職する
国が定める保育士の配置基準を上回る人員を確保し、働き方改革に力を入れている保育園へ転職するのも1つの選択肢です。先述したように、公定価格には限界がありますが、中には補助金や行政の支援をうまく活用して人件費を補っている園もあります。また、ICTシステムを導入し、生産性を大幅に向上させることで、残業や休憩時間の返上、持ち帰り仕事などを減らす努力をしている施設もあります。
現在の職場の配置基準がおかしいからといって、「どこの職場も一緒」と諦める必要はありません。求人探しが不安な方は保育業界に特化した転職エージェントに相談すると、応募先の内部事情を把握でき、より良い働き方を実現しやすくなるでしょう。
保育士の配置基準についてよくある質問
ここでは、保育士の配置基準についてよくある質問を紹介します。
保育士の配置基準が新制度になれば保育園の負担は緩和されますか?
配置基準が改善され、保育士1人が担当する子どもの数が減ることになれば、保育の質の向上や業務負担の軽減につながる可能性があります。子どもと丁寧に向き合う時間が増えることで、安全の確保や、配慮が必要な園児への支援も手厚く行えるようになるでしょう。ただし、その分必要な保育士の数も増えるため、人材の確保が難しくなるといった懸念もあるようです。
保育士の配置基準の見直しはいつから実施される予定ですか?
保育士の配置基準の緩和は、段階的な計画に基づいて進行中です。2024年度には、4・5歳児の基準が「保育士1人あたり子ども25人(25対1)」へ、3歳児も「15対1」へと引き上げられました。また、2025年度以降は、1歳児の配置基準を現行の「6対1」から「5対1」へと改善する方針が示されています。これに先立ち、2025年4月からは公定価格上の加算措置も導入されています。
保育士の配置基準の見直しは2024年にどう行われましたか?
2024年度の制度改定では、3歳児と4・5歳児について以下の改善が実施されました。
3歳児:保育士1人あたりの子ども数が、20人から15人へ
4、5歳児:保育士1人あたりの子ども数が、30人から25人へ
特に4・5歳児の配置基準の見直しは、1948年の制度開始以来76年ぶりであり、保育制度の重要な転換点となりました。
保育士の配置基準の計算方法を教えてください
基本的な計算方法は、「子どもの定員数÷国が定める基準人数」です。たとえば、認可保育園における0歳児の配置基準は、「子ども3人に対して保育士1人」です。そのため、0歳児の定員が9人の園であれば、9÷3=3人で、3人の保育士が必要となります。園全体で必要な保育士の総数を求めるには、年齢ごとに上記の計算を行い、それぞれの人数を合計します。なお、自治体が独自の基準を設定している場合は、その基準に従ってください。
まとめ
保育士の配置基準は、1948年に定められた内容が基本となっており、現代の保育ニーズや社会の変化に対応しきれていない部分が多くあります。科学的な裏付けが不十分であったり、国際的な基準と比べて差があったりすることから、多くの保育士が「おかしい」と感じているのが現状です。2024年には、4・5歳児の配置基準が76年ぶりに見直されましたが、現場の負担感は依然として大きく、さらなる取り組みが求められています。
もし、保育士として今の職場に不安や働きづらさを感じているなら、配置にゆとりのある自治体や園への転職を前向きに考えてみるのも有効です。保育業界に特化した転職エージェントのレバウェル保育士では、人員体制に余裕のある職場を紹介するだけでなく、実際に働く人のリアルな声もお伝えするので、ミスマッチを防ぎながら効率的に転職活動が進められます。サービスはすべて無料なので、無理をし過ぎてしまう前にぜひ一度ご相談ください。
執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。
















