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保育士は誰でもできる仕事じゃない!誤解される理由と現場の問題点を解説
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「保育士は誰でもできる仕事」という言葉を聞いて違和感を持つ方もいるのではないでしょうか。保育士は国家資格を持つ専門職で、決して簡単な仕事ではありません。しかし、専門性が外から見えにくいため誤解されやすいのも事実です。この記事では、「誰でもできる」という言葉が生まれた経緯や誤解が生じる背景、給料が上がりにくい理由について解説します。保育士を目指すかどうか迷っている方も、ぜひ参考にしてください。
目次
保育士は誰でもできる仕事ではない
保育士は国家資格を持つ専門職であり、決して誰にでもできる仕事ではありません。資格を取得するには、厚生労働大臣が指定する養成施設で学び卒業するか、保育士試験を受験して合格する必要があります。保育士資格は、専門職として必要な要件を満たしていることの公的な証明なのです。
確かに、保育の業務を細かく分ければ、専門外の人が担える仕事はあるかもしれません。しかし、保育士には自分の行動が子どもに与える影響を論理的に説明できる知識と、それを実践する専門性が求められます。日々の保育の質を高める努力はもちろん、子どもたちの未来を育む重要な時期を預かるという強い責任感と自覚も不可欠です。
出典
厚生労働省「ハローミライの保育士」(2025年9月17日)
「保育士は誰でもできる」論争の経緯
「保育士は誰でもできる」という発言が話題になったのは、2017年に朝日新聞デジタルで公開された保育士の給料の低さに関する記事に対し、堀江貴文氏が「誰でもできる仕事だからです」とコメントしたことがきっかけです。この発言だけを見ると、保育士の仕事を軽視しているようにも受け取れますが、その後、堀江氏はSNSで「希少性が低い仕事は給料が上がりにくくなっている現状について言及した」といった旨を補足しています。
つまり、保育士という職業そのものを否定するつもりはなかったと考えられますが、最初のコメントが短い一文だけだったため、「誰でもできる=簡単で楽な仕事」という誤解を招き、多くの人々の賛否を呼ぶ論争へと発展したようです。
なぜ保育士は誰でもできると誤解されるのか?
保育士の仕事は、しばしば「誰にでもできる仕事」と誤解されがちです。その背景には、保育の専門性が社会から正しく理解されていないという問題があります。以下で詳しく見ていきましょう。
保育士の仕事と子育てが混同されているため
保育士が「誰にでもできる仕事」と誤解される理由の1つに、子育てと混同されやすい点があります。保育の現場に馴染みがない人の中には、「子どもと穏やかに過ごすだけの簡単な仕事」と捉える人もいるかもしれません。
しかし、実際の保育士の仕事は、専門知識を活かしながら多くの子どもを同時に見守り、年齢や成長段階に応じて適切な対応を行う高度なものです。保育所保育指針という国のガイドラインに沿って創意工夫を図り、保育の質の向上に努めなければなりません。にもかかわらず、「家庭での子育てとほぼ同じ」との誤った認識が根強く、正当に評価されにくい現状があります。
手作り・手書きの文化が残っているため
手作りや手書きの文化も、保育士の仕事が「誰でもできる」と誤解される一因です。保育現場では、壁面装飾や製作物、連絡帳などアナログな作業が多いため、「特別なスキルがなくてもできそう」と思われてしまうことがあります。
実際、これまで保育士は事務作業に多くの時間と労力を割いてきました。こうした業務負担を軽減するため、近年ではICTを活用した業務の効率化が進められています。こども家庭庁の「保育DXの推進について(p.4)」によると、保育施設におけるICT端末導入率100%を目指す動きがあり、国をあげてデジタル化が推進されています。もちろん、システムの定着には課題もありますが、より質の高い保育を実現するための一歩となっているのです。
出典
こども家庭庁「保育現場でのDXの推進に向けた調査研究事業」(2025年9月17日)
保育士の給料は誰でもできるから低いのか?
「専門職なのになぜ保育士の給料は低いの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。ここでは、「誰でもできる仕事」だから本当に給料が安いのか、その理由を見ていきます。
保育士の給料が低い原因は制度にある
保育士の給与が低い原因は、誰でもできるからではなく、日本の保育制度にあります。保育園の多くは、企業のような自由な価格競争ではなく、国が定める「公定価格」という補助金によって運営されています。この公定価格が保育現場の実態に合っていないため、十分な人件費を確保できず、園の裁量で給料を上げるのが難しい状況が生まれているのです。
保育園の中には、国の基準を上回る人数の保育士を配置し、子どもの安全と質の高い保育を追求しているところも少なくありません。しかし、公定価格は最低限の基準に基づいて算定されているため、手厚い保育にかかる費用は補助金の対象外となります。つまり、より良い保育を目指して努力する園ほど、人件費や運営費の負担が重くなり、経営を圧迫してしまうというジレンマが起きているのです。
出典
こども家庭庁「子ども・子育て支援制度」(2025年9月17日)
やりがい搾取が給料の低さを助長している
保育士の給与が上がりにくい背景には、国の制度だけでなく、やりがいという名の落とし穴があります。子どもの成長を間近で見られることや社会貢献への実感は、保育士にとって重要なモチベーションです。しかし、このやりがいを理由に、「子どものために頑張るのが当然」「休憩や残業代は二の次」といった不当な労働環境がまかり通ってしまうことも。結果として給料や待遇の改善が進みにくく、頑張りが報われない悪循環になっているのです。
処遇改善等加算で待遇は徐々に改善されている
保育士の給与は、全産業の平均と比べるとまだ低い水準ではありますが、「処遇改善等加算」という政策を通じて少しずつ改善が進められています。この制度では、保育士の給料を底上げするだけでなく、経験年数や役職に応じて手当を上乗せすることで、専門性を持つ保育士が長く働けるような仕組みを目指しています。
こども家庭庁の「令和7年度以降の処遇改善等加算について(p3)」によると、保育士の平均給与は年々上昇しています。2013年度からは34%の改善率となっており、国が保育士の待遇改善に本腰を入れているのが分かるでしょう。したがって、「誰にでもできる仕事だから給料が安い」という訳ではないのです。
出典
こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」(2025年9月17日)
保育士を誰もが続けられる仕事にするために
「保育士は誰でもできる仕事」という言葉は、その背景や意図がどうであれ、多くの保育士にとって複雑な思いを抱かせるものだったことでしょう。ただこうした発言に対して感情的に反発するだけでは、「保育士の仕事は辛くて大変だ」というイメージを強調してしまいかねず、結果として保育業界が抱える根本的な課題の解決から遠ざかってしまう恐れがあります。
大切なのは、保育士の仕事を「誰でもできる」と見るのではなく「誰もが長く働き続けられる」持続可能な体制を社会全体で築くことです。残念ながら、現在の保育業界は人手不足が常態化しており、個々の保育士にかかる負担は大きなものとなっています。労働環境を社会や職場全体で見つめ直すことで、ゆとりを持って仕事に取り組めるようになるはずです。
今の保育園がキツいなら転職するのも1つの手
もし、「今の保育園で働くのが辛い」「仕事が大変なのに改善される見込みがない」と感じているなら、思い切って転職を考えてみるのも1つの解決策です。持ち帰り仕事を禁止している園や行事が少なく事務作業の負担が小さい園、職員を多めに配置して休憩時間をしっかり確保している園など、労働環境の改善に力を入れている保育園は確かに存在します。
専門性を最大限に活かし、子どもたちと心から向き合うためには、自分自身に余裕を持てる環境を見つけることが大切です。今よりも快適に働ける園をお探しの方は、ぜひレバウェル保育士にご相談ください。
「保育士は誰でもできるって本当?」と気になる人によくある質問
ここでは、「保育士は誰でもできるって本当?」と気になる人によくある質問を紹介します。
保育士の受験資格を満たすのに必要な方法を教えてください
保育士試験の受験資格を得るには、大学や短期大学、専門学校などを卒業するか児童福祉施設で2年以上の実務経験を積む必要があります(最終学歴が中学校卒業の場合は5年以上)。また、厚生労働大臣が指定する指定養成施設を卒業すれば、専門的なカリキュラムを学びながら保育士試験を受けずに保育士資格を取得できます。ライフスタイルや状況に合わせて、最適な方法を選びましょう。
出典
一般社団法人 全国保育士養成協議会「保育士試験を受ける方へ」(2025年9月17日)
保育士試験に合格して資格取得を目指すのは難しいですか?
保育士試験は決して簡単ではありませんが、適切な学習計画と対策を行えば合格を目指すことは可能です。試験は筆記試験と実技試験に分かれており、筆記試験を全科目合格した人のみが実技試験に進めます。こども家庭庁の「保育士試験の実施状況(令和5年度)」によると、2023年度の保育士試験の合格率は26.9%です。一度合格した筆記試験の科目は3年間有効なので、数年かけて段階的に合格を目指すのも手でしょう。
出典
こども家庭庁「保育」(2025年9月17日)
保育現場で補助として働く場合は無資格でもOKですか?
無資格の方であっても、保育補助として保育現場で働くことは可能です。保育補助の仕事は、主に保育士のサポートが中心で、日常的な保育活動を支える役割を担います。パートやアルバイトなど非常勤の募集が多く、働き方に柔軟性があるのが特徴です。現場で経験を積みながら自分に合っているかを見極め、将来的に保育士資格の取得を目指す人もいます。
出典
職業情報提供サイト(job tag)「保育補助者」(2025年9月17日)
国家資格が必要な保育士の仕事内容は子どもと遊ぶだけですか?
保育士の仕事は、子どもと遊ぶだけではありません。子どもの命を預かる専門職として、年齢や発達段階に応じた関わり方を工夫しながら、情緒面や身体面の健やかな成長を支える役割を担っています。また、保護者対応や事務作業、保育環境の整備、行事の企画・運営など、日々の業務は幅広く、専門的な知識と技術が求められる責任の大きな職種です。
まとめ
保育士は、子どもの命を預かり、心身の発達を支える専門職です。決して誰にでもできるような簡単な仕事ではありません。給与が低い背景には、「誰でもできるから」ではなく、公定価格による制度の仕組みや、やりがいを搾取するような労働環境が影響しています。近年は、処遇改善等加算などの政策によって待遇の見直しが進みつつあり、保育士の専門性を正しく評価する動きも広がっています。安心して長く働ける環境が整えば、保育士はより多くの人にとって魅力的な職業となるはずです。
もし、保育士として今の職場に負担を感じているなら、転職を検討するのも前向きな選択肢の1つです。保育業界に特化した転職エージェントのレバウェル保育士では、キャリアアドバイザーが希望条件を丁寧にヒアリングし、最適な求人をご紹介。現場のリアルな情報をお伝えするので、ミスマッチを防ぎやすく安心です。保育士の仕事は勤務先によって労働環境や給与、働き方に大きな差があります。心身ともにゆとりを持って働ける職場を一緒に見つけていきましょう。
執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。