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児童養護施設の保育士とはどのような仕事?役割や働くメリット・デメリット
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保育士として働いていると、児童福祉施設に関心を持つ方もいるかもしれません。その中の1つである児童養護施設は、保護者がいない、または虐待や病気などにより家庭生活が困難な子どもたちが生活する施設です。児童養護施設で働く保育士は、保護者に代わって自立支援を行います。 本記事では、児童養護施設の概要や保育士の仕事内容、メリット・デメリットまで詳しく解説。「家庭的な雰囲気の中で、子どもたちを支援したい」という人は、ぜひ参考にしてください。
目次
保育士が勤務する児童養護施設とは
児童養護施設とは、保護者がいない、または虐待や病気などにより家庭生活が困難な子どもたちの社会的養護を行う入所施設のことを指します。こども家庭庁の「施設入所児童の推移 (p.3)」によると、施設数は610ヶ所(2022年3月時点)。児童養護施設で働く保育士の仕事は、24時間365日体制で子どもたちの生活全般を支援することです。
e-Gov法令検索「児童福祉法第四十一条」によると、児童養護施設は以下のように定義されています。
引用テキスト
児童養護施設は、保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。以下この条において同じ。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする。
引用:児童福祉法第四十一条
なお、児童養護施設は子どもたちの養育や支援だけではなく、地域の子育て支援の拠点として、児童虐待防止の普及・啓発という役割も担います。
出典
こども家庭庁「施設入所児童の推移」(2025年7月31日)
e-Gov 法令検索「児童福祉法第四十一条」(2025年7月31日)
児童養護施設の形態
児童養護施設には3つの形態があり、それぞれ定員数が異なります。
施設の形態 | 定員 |
大舎 | 1舎20名以上 |
中舎 | 1舎13~19名 |
小舎 | 1舎12名以下 |
保育士の中には、「児童養護施設=大規模な養育環境」をイメージする人もいるかもしれません。確かに、以前までは大舎制が主流でしたが、近年の児童養護施設は小規模化が推進され、個別的養育の展開が求められています。子どもたちへ家庭的な環境を提供するには、集団管理的な視点ではなく、子どもの個性に応じたアプローチが重要です。
出典
社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国児童養護施設協議会「もっと、もっと知ってほしい 児童養護施設」(2025年7月31日)
児童養護施設に携わる職員の種類
児童養護施設では、保育士以外にも、以下のように多くの専門職が働いています。多様かつ複雑な問題を抱える子どもたちをケアするには、チームでの協力が欠かせません。
保育士
児童指導員
家庭支援専門相談員
里親支援専門相談員
個別対応職員
自立支援担当職員
心理療法担当職員
嘱託医
e-Gov法令検索の「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第四十二条」によると、児童養護施設の保育士および児童指導員の配置基準は、以下のとおりです。児童45人以下の施設では、さらに1人以上を加えるよう定められています。
満2歳に満たない幼児 | 概ね1.6人につき1人以上 |
満2歳以上満3歳に満たない幼児 | 概ね2人につき1人以上 |
満3歳以上の幼児 | 概ね4人につき1人以上 |
少年 | 概ね5.5人につき1人以上 |
出典
社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国児童養護施設協議会「もっと、もっと知ってほしい 児童養護施設」(2025年7月31日)
e-Gov法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(2025年7月31日)
児童養護施設で保育士が関わる子どもの概要
ここでは、児童養護施設で生活する子どもの人数や年齢、入所理由について解説します。児童養護施設で過ごす子どもたちの姿を想像すると、仕事への理解も深まるはずです。
児童養護施設の子どもの人数・年齢
こども家庭庁の「児童養護施設入所児童等調査の概要」によると、児童養護施設に入所している児童数は23,043人で、平均年齢は11.8歳です。委託時または入所時の年齢で最も多いのは2歳で、在所期間の平均は5.2年となっています。
なお、児童養護施設の対象年齢は原則1歳〜18歳ですが、児童福祉法改正に伴い、2024年4月より年齢上限が撤廃されました。これまでは22歳が最長でしたが、現在は「自立可能かどうか」が判断基準とされています。
出典
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2025年7月31日)
厚生労働省「児童福祉法等の一部を改正する法律(令和4年法律第66号)の概要」(2025年7月31日)
児童養護施設に子どもが入所する理由
児童養護施設で過ごす子どもの主な入所理由は、以下のとおりです。状況によっては、1つだけでなく、複数の要因が絡み合い複雑化している場合もあります。
死別
災害・事故
離婚・病気
不適切な養育
養育能力の欠如
両親の不仲
精神疾患
経済的困難
とくに、近年社会的な課題となっているのが、児童虐待の増加です。こども家庭庁の「児童養護施設入所児童等調査の概要 (p.12)」によると、71.7%が「虐待経験あり」となっており、事態の深刻さが伺えます。
出典
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2025年7月31日)
児童養護施設に勤務する保育士の役割・仕事内容
児童養護施設に勤務する保育士は、子どもの親代わりを務める重要な役目を果たします。ここでは、児童養護施設で働く保育士の役割と仕事内容を見ていきましょう。
児童養護施設に勤務する保育士の役割
児童養護施設における保育士の役割は、親のような存在として、子どもたちを健やかに育むことです。子どもたちが「自分は愛されている」と思うためには、自尊心をもたらし、自己肯定感を高める大人の存在が欠かせません。保育士には、それらの経験を積み重ねていけるように、固有の専門性を発揮しながら、心理的なケアを行うことが求められます。
児童養護施設の保育士と児童指導員の違い
施設保育士に近い仕事をする職種に児童指導員があります。児童指導員とは、施設などで子どもたちの援助や育成、生活指導を行う立場のことです。同じ児童養護施設での業務内容に大きな違いはありませんが、保育士は国家資格、児童指導員は任用資格のため、資格取得までの過程が大きく異なります。
保育士資格は指定保育士養成施設を卒業するか、試験を受験し、合格すれば取得できます。一方、児童指導員の資格は学歴の要件を満たしている人、幼稚園教諭、小中学校、高等学校の教員免許を保有している人、実務要件などを満たしている人に与えられます。
出典
職業情報提供サイト(job tag)「児童指導員」(2025年7月31日)
児童養護施設に勤務する保育士の仕事内容
児童養護施設に勤務する保育士の仕事内容は、以下のような項目に分かれています。
日常生活支援
相談援助業務
家事的業務
学習支援・余暇支援
健康観察
環境整備・安全管理
社会生活準備支援
退所後支援
その他業務
児童養護施設の保育士の仕事は、一般的な保育士に比べて広範囲に及びます。買物や病院への付き添いをはじめ、ときには学校行事に参加する場合もあるでしょう。保育の枠を超えて、子どもたちの生活全般を支援し、深い愛情を注ぐことが大切です。
出典
厚生労働省「児童養護施設 運営ハンドブック」(2025年7月31日)
児童養護施設に勤務する保育士の勤務形態
児童養護施設は入所施設であるため、保育士は早番・遅番などシフトに沿って勤務します。土日祝の出勤や宿直もあるほか、宿直明けにそのまま連続して働く場合もあるでしょう。施設によっては、宿直ではなく夜勤を採用しているところもあるようです。なお、宿直と夜勤の違いは、以下のとおりです。
夜勤 | ・法定労働時間に含む
・時間外労働の賃金、深夜の割増賃金あり |
宿直 | ・法定労働時間に含まない
・宿日直手当あり |
児童養護施設に勤務する保育士の1日の流れ
以下の表は、児童養護施設に勤務する保育士のスケジュールをまとめたものです。施設ごとに働き方は異なるため、あくまで参考にしてください。
時間 | 早番 | 遅番 |
午前7時 | 出勤/朝食のサポート | - |
午前7時30分 | 通園、通学に送り出す | ー |
午前9時 | 洗濯、清掃/保育業務 | ー |
正午 | 昼食の介助/休憩 | ー |
午後2時 | お迎え/連絡事項の確認 | 午後2~3時ごろから出勤 |
午後3時 | 遊びのサポート | 午後2~3時ごろから出勤 |
午後4時 | 引き継ぎをして帰宅 | 入浴の介助 |
午後6時 | 退勤 | 夕食の介助/後片付け |
午後8時 | 退勤 | 部活動などのお迎え/食事のサポート、個別対応 |
午後9時 | 退勤 | 寝かしつけ |
午後10時 | 退勤 | 退勤/宿直の場合は見回り後就寝 |
午前6時 | 退勤 | 起床、準備のサポート |
児童養護施設の保育士は、24時間365日、交替で勤務しながら子どもたちの起床から就寝までを見守ります。家事業務や事務作業を通して、安全・安心な生活を提供する必要があります。
児童養護施設に勤務する保育士の給料
児童養護施設に勤務する保育士の月収は、正社員で19〜25万円ほどといわれています。一般的な保育士の水準とあまり変わりはありませんが、児童養護施設の保育士は宿直や夜勤を伴うため、手当による加算で違いが出るでしょう。待遇は各施設によって異なるため、求人を選ぶ際はしっかりと確認するようにしてください。
また、児童養護施設は、行政から運営を委託された民間の施設がほとんどです。しかし、中には公立の施設もあります。公立の施設で働く保育士は、地方公務員の扱いになるため、公務員給与規定によって高水準の給料が期待できるでしょう。
児童養護施設に勤務する保育士のメリット
ここでは、児童養護施設に勤務する保育士のメリットを紹介します。親の代わりとして子どもと信頼関係を築くのは、保育士としての大きなやりがいといえます。
長期的に子どもの成長・自立を支援できる
児童養護施設に勤務する保育士の一番のメリットは、子どもたちの人生をともに歩み、自立までの成長を見守れることだといえます。愛情を持って接すると、子どもたちは保育士のことを「安心して自分を委ねられる大人」と認識するでしょう。施設を退所してからも、アフターケアを通して長期的に子どもたちを支援します。
資格取得によってキャリアアップが目指せる
児童養護施設では、幅広い年齢層の子どもたちと関わるため、保育スキルの向上が見込めます。施設保育士として専門性を高めれば、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格も視野に入るかもしれません。児童養護施設で働く保育士がこれらの資格を取得すると、キャリアアップにつながったり、給料が上がったりする可能性があります。
児童養護施設に勤務する保育士のデメリット
児童養護施設に勤務する保育士には、メリットだけではなく、デメリットも存在します。家庭的養護の推進により、今日、個人の力量はさらに問われるようになっているため、さまざまな悩みに直面する場合があるかもしれません。
生活リズムが不規則のため心身の負担が大きい
前述のとおり、児童養護施設は24時間365日体制のため、生活リズムが不規則になります。社会的な責任だけでなく、体力的な負担も大きいため、しんどいと感じることもあるでしょう。当然ながら、夜間に不測の事態が起きたり、緊急時の対応が必要になったりする場合も考えられます。
信頼関係の構築・対応に困難感を抱きやすい
児童養護施設に入所する子どもは、大人へ不信感を抱き、心にバリアを張っていることがあります。子どもたちの状況は、「自分の感情を押し殺している」「挑発的かつ攻撃的な言動を取る」「感情のコントロールが難しい」など、実にさまざまです。それゆえに、基本的な信頼感を回復する過程で、戸惑いを感じる場合もあるでしょう。
こども家庭庁の「児童養護施設入所児童等調査の概要 (p.9)」によると、児童養護施設の支援でとくに留意している点として、「精神的・情緒的な安定」が挙げられています。
出典
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2025年7月31日)
児童養護施設に向いている保育士の特徴
児童養護施設に向いている保育士の特徴には、以下のようなものがあります。
親代わりとして向き合う覚悟がある
責任感が強く寄り添う姿勢がある
社会的意義が高い仕事に携わりたい
家事スキルが備わっている
前述のとおり、児童養護施設の保育士は、子どもたちの背景にある過酷な経験や、痛ましい現実にも直面します。そのため、真剣に向き合う根気や覚悟は欠かせません。その上で、子どもたちにとって居心地が良い場所となるように、一緒に日常を楽しめる保育士は児童養護施設に向いているといえるでしょう。
児童養護施設の求人で保育士がチェックしたいポイント
児童養護施設の労働環境は職場ごとに違いがあります。そのため、保育士が求人を探す際は、下記のポイントを押さえて、自分らしく働ける職場を見つけましょう。
忙しさと給料のバランスは見合っているか
残業代はきちんと支給されるか
有給は取得できるか
人員に余裕があるか
休憩はきちんと取れるか
実際に、児童養護施設の中には、人手不足で労働環境が厳しい職場もあります。長く働き続けるには、心身の負担を考慮することが大切です。
児童養護施設に勤務する保育士に関してよくある質問
ここでは、児童養護施設に勤務する保育士に関して、よくある質問を紹介します。
児童養護施設の保育士になるには資格が必要ですか?
保育士資格を持っていない場合は、国家資格を取る必要があります。ただし、保育士免許をすでに所持している場合は、通常の就職・転職と同じステップを踏み、入職します。本記事で紹介した「児童養護施設の求人で保育士がチェックしたいポイント」も参考にしてください。
児童養護施設の保育士は公務員ですか?
公立の児童養護施設に勤務する場合は、地方公務員の扱いになります。ただし、ほとんどの児童養護施設は、社会福祉法人などが運営する私立の施設です。公務員試験の合格も必要となるため、勤務する難易度は高いといえるでしょう。
児童養護施設に勤務する保育士の年収はいくらですか?
児童養護施設に勤務する保育士の給与水準は、一般的な保育士とあまり変わりがないようです。そのため、厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」に記載されている想定される平均年収406万8,100円を1つの目安にすると良いかもしれません。
なお、児童養護施設はシフト制のため、手当の支給額によっても違いが出ます。正確な給与や年収は、各求人票をしっかりとチェックするようにしてください。
出典
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(2025年7月31日)
児童養護施設に転職する保育士に多い志望動機は?
保育士が児童養護施設に転職する志望動機は、「家庭環境に合わせたサポートを行いたい」「子ども一人ひとりと丁寧に関わりたい」「子どもの成長に携わり生活全般を支援したい」などが挙げられます。
まとめ
児童養護施設で働く保育士は、家庭生活が困難な子どもを対象として、生活全般を支援する役割を担います。児童養護施設の子どもたちと信頼関係を育むのは、決して簡単ではありません。しかし、時間をかけて丁寧に愛情をこめて接すれば、いつしか心の拠り所となれるでしょう。不規則な生活リズムで体力的な負担は大きい傾向にありますが、子どもの生活全般を支援したい方、専門性を高めたい保育士にはおすすめです。
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執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。