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乳児院とは?施設の役割や保育士の仕事内容、働くメリットを解説
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保育士の中には、将来的に乳児院での勤務を視野に入れている方もいるのではないでしょうか。乳児院では、保護者の代わりに保育士が乳幼児の養育を行います。 本記事では、乳児院の役割や児童養護施設との違い、取り巻く状況について詳しく解説。また、保育士の仕事内容や勤務するメリット・デメリットも紹介します。 「子どもや保護者の手助けをしたい」「家庭をサポートしたい」という方はぜひ参考にしてください。
目次
乳児院とは
乳児院とは、保護者との生活が困難な乳幼児を預かり、養育する施設のことを指します。「児童福祉法第37条」に規定されており、養育機能に加え、地域の育児相談や子育て支援機能を持っているのも特徴です。
厚生労働省「令和4年社会福祉施設等調査の概況 総括表」によると、2022(令和4)年10月1日現在の施設数は145ヶ所で、入所児童数は2,560人です。厚生労働省「社会的養護の施設等について
」における2011(平成23)年10月時点の施設数は129ヶ所のため、11年で16ヶ所増えており、乳児院の数は上昇傾向にあるといえます。
出典
e-GOV法令検索「児童福祉法」(2025年6月20日)
厚生労働省「令和4年社会福祉施設等調査の概況」「社会的養護の施設等について
」(2025年6月20日)
乳児院の持つ役割
乳児院は、なんらかの事情で保護者の養育を受けられない乳幼児を対象にしており、24時間体制で養育します。短期の場合は子育て支援の役割、長期は乳幼児の養育だけでなく、保護者の支援のほか、退所後に行うアフターケアや親子再統合支援を行うのが特徴です。以下で具体的な内容を見ていきましょう。
保護が必要な子どもの養育やケア
乳児院は、保護者に代わって一時的に乳幼児を養育します。また、被虐待児や病児、障がい児などの特別なケアを要する子どもに対応できるよう、専門的な養育機能もあわせ持ちます。支援を必要とするすべての子どもが安心して生活できるように看護師や医師、栄養士などの各専門スタッフがチームとなり、24時間365日体制で援助するのが特徴です。
出典
厚生労働省「社会的養護の施設等について」(2025年6月20日)
家族への養育支援
乳児院に乳児を預ける家庭の状況はさまざまです。そのため、保護者への支援も欠かせません。子ども自身の状況や親と子の関係性を考慮した上で、退所後は指導や支援を行います。アフターケアを通じて、保護者をサポートするのも乳児院の大切な役割だといえるでしょう。
里親への支援と関係調整
里親家庭の支援やケアも重要な役割の1つです。こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要 (p.5)」によると、里親の委託・入所経路における乳児院の割合は、全体の29.8%を占めています。里親への措置変更(移動)が行われる場合は、新たな養育環境への移行に伴う関係調整や寄り添う姿勢が求められます。
出典
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2025年6月20日)
地域の子育て支援
地域の子育て支援では、すべての子どもたちが地域で健やかに育っていけるように、各市区町村との連携も行います。ショートステイや育児相談などのさまざまな育児サービスを提供し、地域の子育て拠点としての機能を担うのが特徴です。育児相談では、離乳や栄養などの相談にも応じます。
関係機関との連携
乳児院では、児童相談所・行政機関・医療機関との連携や協働も行います。子どもの家庭復帰には乳児院を中心とした包括的な取り組みが必要です。家庭復帰を早期に実現するべく、関係機関と連携し、継続的に支援するのが大切だといえます。
退所への調整・退所後のサポート
乳児院では、入所前だけではなく、退所後のサポートも欠かせません。退所後の行き先は、家庭や里親家庭、次の施設などさまざまなため、状況に応じて「面会・外出・外泊」「マッチング」「事前交流」などを行う必要があります。退所に向けてのサポートでは細心の注意を払い、慎重な判断・対応を行うのが重要です。
乳児院の入所条件
乳児院は乳児の養育施設であるため、基本的に1歳未満の子どもを対象とします。ただし、2004(平成16)年に児童福祉法が改正され、安定した生活環境の確保という理由で必要とされる場合は、就学前まで入所するのも可能です。なお、厚生労働省「乳児院運営指針 (p6)」によると、実際には2歳や3歳まで入所している子どもも多いようです。
出典
厚生労働省「児童福祉法の一部を改正する法律」の施行について」「乳児院運営指針
」(2025年6月20日)
乳児院の平均在所期間
厚生労働省「社会的養護の施設等について」によると、乳児院を利用する子どもの半数は短期間が多く、1ヶ月未満は26%、6ヶ月未満を含めると48%を占めます。
また、厚生労働省「乳児院運営指針 (p.5)」によると、乳児院の在所期間は、短期と長期に二極化されているという特徴があります。長期の在所の場合は家族環境の調整を図り、親子関係の再構築に対する支援が必要です。
出典
厚生労働省「社会的養護の施設等について」「乳児院運営指針
」(2025年6月20日)
乳児院の入所理由
厚生労働省「乳児院運営指針 (p.5)」によると、乳児院に入所する主な理由は以下のとおりです。状況によっては、要因が重なり複雑化している場合もあります。
主な養育者の疾病
虐待やネグレクト
父母の就労
父母の受刑
とくに、長期在所においては、保護者がさまざまな困難を抱えている場合もあり、家庭環境の丁寧な調整が大切です。また、子どもの中には、養育上個々に沿ったサポートが必要な子や、疾病や障がいなどを抱える子もいます。
出典
厚生労働省「乳児院運営指針」(2025年6月20日)
乳児院に勤務する職員の配置基準
乳児院では、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第21条」により多種の専門職の配置が義務付けられています。多岐にわたるニーズに応えるためには、職員が協働し、専門性の高い医療的ケアや心理的ケアを行うことが大切です。以下の表にて職種別の人員配置基準をまとめましたので、参考にしてください(乳幼児10人未満の乳児院は除く)。
職種 | 人数・条件 |
医師・嘱託医 | ・定員100人未満の場合:嘱託医1人
・定員100人以上の場合:医師1人 |
看護師(※) | ・満2歳未満の場合:おおむね1.6人につき1人以上
・満2歳以上3歳未満の場合:おおむね2人につき1人以上 ・満3歳以上の場合:おおむね4人につき1人以上 ※上記の合計数が7人未満の場合は7人以上 |
個別対応職員 | 1人 |
家庭支援専門相談員 | 1人 |
栄養士 | 1人 |
調理員 | 調理業務の全部を委託する施設の場合は配置しなくても良い |
心理療法担当職員 | 心理療法を行う必要があると認められる乳幼児またはその保護者10人以上に心理療法を行う場合に配置 |
保育士 | 乳幼児20人以下を入所させる施設には1人以上配置 |
施設長 | 1人 |
※乳幼児10人の乳児院には2人以上、乳幼児が10人を超える場合は、おおむね10人増すごとに1人以上看護師を配置(それ以外は保育士または児童指導員に代えられる)。
出典
e-GOV法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(2025年6月20日)
乳児院と児童養護施設の違い
乳児院と児童養護施設は子どもの対象年齢が違います。乳児院は原則1歳未満の子どもが対象です。一方、児童養護施設は原則1歳から自立が可能になるまで、継続的に支援を受けられます。
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要 (p.2)」によると、乳児院の平均年齢は1.6歳、児童養護施設の平均年齢は11.8歳です。また、平均在所期間も乳児院に比べて長期にわたります。
出典
こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2025年6月23日)
乳児院で働く保育士の仕事内容とは
ここでは、乳児院で働く保育士の仕事内容を6つの項目に分けて解説します。乳児院では、乳児の養育だけでなく、さまざまな子育て支援機能を有しています。
ミルクや食事の介助
子どもの養育自体は、保育園の2歳児クラスまでとほとんど変わりません。乳児院で過ごす時間は、食の基礎を作る重要な時期であるため、適切な栄養管理・食事を提供するのが大切です。アレルギーや障害などにも配慮し、安全で最適な提供方法を検討します。
オムツ替え
乳幼児期は人生の基礎となる段階です。世話をされた子どもは人に対する信頼を抱き、安心して過ごせるようになります。乳児院で働く保育士は、オムツ替えのほかにトイレトレーニングも行います。2〜3歳などでトイレに行ける場合は、その介助や見守りも行います。
入浴介助
乳児院の保育士は、子どもたちの入浴・沐浴もサポートします。年齢によって適した入浴方法は異なるため、一人ひとりに注意しながら快適な入浴・着替えの介助を行うのが大切です。保育士との触れ合いによって、信頼関係の構築にもつながるといえます。
寝かしつけや夜泣きの対応
乳児院は24時間体制で運営され、子どもたちの生活すべてを支えます。そのため、保育士には寝かしつけの対応も求められます。夜泣きのケアや就寝後の見まわりなども必要なため、人によっては1日の流れをハードに感じるかもしれません。
保護者からの相談対応
乳児院で働く保育士は、窓口として親と子の関係性をつなぐ役目も果たします。さまざまな悩みや不安を抱える保護者には、丁寧に寄り添いながらアドバイスを行うのが大切です。また、子どもが退所した後のアフターケアも保育士の仕事内容の1つです。
関係機関との連携
子どもたちが安全に暮らす環境を構築するには、他機関との協働も欠かせません。乳児院は原則1歳未満の子どもが対象となる施設のため、退所後の支援も行います。なお、退所後の選択肢には、家庭や里親委託、児童養護施設への措置変更(移動)などがあります。
保育士が乳児院で働くには?転職時に確認しておきたい点
乳児院で働くか迷っている人の中には、必要な資格やスキルについて知りたい人もいるでしょう。ここでは、保育士が転職時に確認しておきたい点を紹介します。
乳児院で勤務するための資格
乳児院は、保育士資格があれば働くことが可能です。ただし、保育士の配置基準は施設の人数によって異なるため、すべての乳児院に保育士が配置されている訳ではありません。また、無資格の場合でも、保育補助として働ける可能性があります。
保育士が乳児院で働くのに必要なスキル
保育士が乳児院で働くためには、乳児保育に関する知識が必要です。また、医療や福祉に関する知識も役立つでしょう。他職種と連携して情報共有や保護者のサポートを行うため、高いコミュニケーション能力も必要です。安全で安心な環境を提供するために、緊急時の判断力や臨機応変な対応も求められます。
保育士が乳児院で勤務するメリット・デメリット
乳児院で働く保育士は、保育所と違い24時間365日体制で子どもの健全な成長を支えます。そのため、勤務する際はメリット・デメリットを考慮した上で、自分の適性を見極めるのが大切です。
乳児院で働くメリット
乳児院で働くメリットは、子どもの生活を近い距離でサポートできることです。子どもの人生に関わる責任の大きい仕事ではありますが、「他職種とチームになって子どものために働きたい」「手厚い保育を通じて成長を見届けたい」という人には向いているでしょう。親子を支援することで社会福祉に貢献している実感も得られます。
乳児院で働くデメリット
乳児院で働くデメリットは、意思疎通しにくい年齢の子を保育する難しさがある点です。また、保護者との関わりに悩み、精神的な負担を感じる場面もあるかもしれません。さらに、一般的な保育園にはない夜勤業務があるため、規則正しい生活を送りたい人には向いていない可能性があります。ミルクや夜泣きの対応をこなす体力も必要です。
乳児院に関するよくある質問
ここでは、乳児院に関するよくある質問を紹介します。
乳児院と保育園の違いは何ですか?
乳児院とは、24時間365日にわたり、子どもを保護・養育する施設です。一方、保育園とは、保護者が就労などで子どもを保育できない場合に一時的に預かる施設のことを指します。乳児院で働く保育士は、保護者の代わりに養育を行い、乳児の生活全般をサポートします。
出典
厚生労働省「保育所ってどんなところ?」(2025年6月23日)
保育士経験が浅くても乳児院に転職できますか?
基本的に転職することは可能です。ただし、求人によっては「保育士経験◯年以上」という条件が設けられている場合もあります。応募する際は、求められている保育士像をきちんと把握するようにしましょう。
乳児院の保育士の求人にはパートやアルバイトもありますか?
正職員だけではなく、パートやアルバイトの求人もあります。乳児院の勤務形態には夜勤もありますが、パートやアルバイトの場合は日勤のみを選ぶのも可能でしょう。なお、仕事内容は、正職員と明確な区別はない場合もあります。
まとめ
乳児院とは、保護者の養育を受けられない乳幼児を養育する施設であり、原則として1歳未満の子どもが対象となります。乳児院へ入所する背景にはさまざまな事情があるため、子どもの状態に応じた細やかな配慮が大切です。
乳児院で働くか迷っている方はレバウェル保育士へご相談ください。レバウェル保育士では、乳児院の保育士に求められるスキルや仕事内容を詳しくお伝えするため、具体的な働き方をイメージすることが可能です。また、乳児院とそれ以外の職場の特徴なども比較し、求人をお調べします。まずはお気軽にお問い合わせください。
執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。