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保育士はうつ病になりやすい?ストレスの原因と5つの対策を解説
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メンタルヘルスに不安を抱えている保育士の中には、うつ病について気になっている方もいるかもしれません。保育士が必ずしもうつ病になりやすいとはいえませんが、ストレスを抱えやすい環境にあることは否定できないでしょう。この記事では、保育士とうつ病の関係性や予防法、発症した場合の対処法について、厚生労働省のデータや研究結果をもとに解説します。自身の心の状態に目を向けるきっかけにしてみてください。
目次
うつ病とは?
厚生労働省の「ご存知ですか?うつ病」によると、うつ病とは脳のエネルギーが欠乏した状態のことを指します。うつ病の代表的な症状は「憂うつ感」です。この憂うつ感には、「楽しみや喜びを感じない」「何か良いことが起きても気分が晴れない」といった特徴があります。こうした症状が2週間以上続き、普段通りの社会生活を送るのが難しい場合、うつ病の可能性があるとされています。
うつ病はいくつもの原因が重なって起こると考えられていますが、中でもきっかけになりやすいのが「環境要因」です。具体的には、大切な人の死や人間関係のトラブル、職場や家庭での役割の変化などが挙げられます。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
保育士はうつ病になりやすい?
保育士が必ずしもうつ病になりやすいとはいえませんが、メンタルヘルスに問題を抱えるリスクは一定数あると考えられます。加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─(p.54)」によると、保育士のメンタルヘルスの実態について、以下のように示されています。
引用テキスト
保育士の4人に1人は不健康な状態にあり、抑うつ症状や不眠症等を示す者も存在する。保育士はワークモチベーションは高いものの、メンタルヘルスの状況は良好とは言えないと指摘されている。海外でも、保育労働者の抑うつ等に関する報告がなされている。
引用:加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─(p.54)」
このように、保育士の中には、厳しい労働環境が続く中で、心身に大きなストレスを抱えながら働いている人も少なくありません。
出典
加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─」「保育学研究」第54巻第1号2016年(2025年6月3日)
保育士がストレスを抱える主な原因
保育士がストレスを抱えやすい背景には、職業特有の構造的な課題があるといわれています。以下に主な原因を挙げるので、自身の状況と照らし合わせてみてください。
業務負担が大きい
保育士の仕事は、子どもの保育だけでなく、保育計画の作成や行事準備、保育記録の作成、環境整備など多岐にわたります。保育士はこれらの業務を限られた時間内でこなしながら、子どもの安全に注意を払わなければなりません。
勤務環境が整わず業務の効率化が進まない職場では、ストレスが蓄積しやすく、働く意欲を保つことが難しくなってしまいます。近年は保育の質の向上も求められているため、精神的なゆとりも持ちにくいでしょう。
労働時間が長い
保育現場では人手不足が深刻化しており、一人あたりの業務量の増加も見過ごせない問題となっています。勤務時間内に仕事が終わらず、持ち帰って作業をしたり、休日に行事の準備をしたりするなど、いわゆる「見えない残業」が発生している保育士も少なくありません。
労働時間が長くなると、十分な休息が取れずに疲れが溜まり、プライベートでリフレッシュする余裕も失われてしまいます。その結果、うまくガス抜きができず、心身に不調をきたす恐れがあるのです。
良好な人間関係を築きにくい
保育現場では、子どもだけでなく、保護者や同僚、上司など、さまざまな人と関わる機会があります。多くの人と良好な関係を築く必要があるため、精神的な負担を感じる保育士も少なくないでしょう。
また、保育士の人間関係では、対人トラブルだけでなく、サポート体制の不十分さがストレスになることもあります。特に、多忙な職場では、新卒の保育士に十分な時間をかけられず、不安や戸惑いが大きくなる場合も。現場での経験が浅いと、思うように成果が出せないことから、困難を感じやすくなるでしょう。
保育士がうつ病を防ぐための5つの対策
ここでは、保育士がうつ病を予防するための対策をまとめました。うつ病予防の基本は、規則正しい生活と十分な休養です。以下のポイントを押さえ、無理のない範囲で心身の調子を整えていきましょう。
1.生活習慣を見直して休養を取る
人には本来、体や心の不調を回復させる「自然治癒力」が備わっています。脳のエネルギーがしっかり保たれていれば、少しの不調は自然に回復していくでしょう。しかし、脳のエネルギーが不足すると自然治癒力がうまく働かず、うつ病を発症する恐れがあるのです。
厚生労働省の「2うつ病の主な症状と原因」では、エネルギーを消耗し過ぎないために、以下の方法が勧められています。ぜひ、日々の生活の中に取り入れてみてください。
仕事の仕方を再検討する
就床前4時間のカフェイン摂取を避ける
ぬるめのお湯での入浴や音楽などでリラックスする
目覚めたら日光を取り入れる
趣味など自分のための時間を確保する
休日の過ごし方を工夫する
最近では、不眠とうつ病の関係性が注目されており、睡眠の大切さが改めて強調されています。毎日忙しく過ごす中で、十分な睡眠を取るのは難しいかもしれませんが、できるだけ体を休める時間を作ることが大切です。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
2.ポジティブ思考を意識する
厚生労働省の「2うつ病の主な症状と原因」によると、うつ病は「性格傾向」も発症要因の1つとされています。加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─(p.62)
」では、保育士の思考と抑うつのつながりについて、次のように示されています。
引用テキスト
困難な状況においても「悪いことばかりではないと楽観的に考える」といった肯定的解釈ができること、つまり物事を否定的にではなく肯定的に捉えるポジティブな思考をもつことの重要性が示唆された。それとともに、「嫌なことを頭に浮かべないようにする」という回避的思考も抑うつ状態に陥らないために場合によっては必要な対処スキルであることが示唆された。
引用:加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─(p.62)」
保育士は仕事の性質上、「もっとこうすべきだった」と自分を責めることがあるかもしれません。「義務感が強い」「完璧主義」「几帳面」といった性格の人は、頑張り過ぎてエネルギーを多く使ってしまうことも。厚生労働省「「極端な思考」編」では、自分の考え方の傾向をチェックできるので、一度客観視してみるのもおすすめです。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
加藤由美・安藤美華代「保育士の抑うつに関連する要因の検討─経験年数、首尾一貫感覚、対処スキルに着目して─」「保育学研究」第54巻第1号2016年(2025年6月3日)
厚生労働省「セルフケア探偵」(2025年6月3日)
3.心身の不調のサインに注意を払う
保育士がうつ病を予防するためには、自身の不調に早めに気付き、適切に対処することが重要です。厚生労働省「4うつ病を防ぐ」では、ストレスの高まりや蓄積によって次のような変化が起こるとされています。
身体面 |
|
心理・感情面 |
|
行動面 |
|
参照:厚生労働省「4うつ病を防ぐ」
なお、うつ病は生活習慣病に似ており、徐々に悪化した場合、自分では気付きにくいという難しさもあります。島村光・金子泰徳「新任保育者が精神的不調により早期離職に至ったプロセス―複線径路等至性アプローチとライフラインメソッドを用いた一事例研究―(p.22)」によると、認定こども園に新卒で就職し、精神的不調により早期離職したAさんについて、「4月頃から疲れを感じていたものの、不調が現れるまで自分がストレスを抱えていることに気付いていなかった」と示されています。
家族や同僚から何か指摘されたときは、自分を振り返るきっかけとして、しっかり耳を傾けることが大切です。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
島村光・金子泰徳「新任保育者が精神的不調により早期離職に至ったプロセス―複線径路等至性アプローチとライフラインメソッドを用いた一事例研究―」埼玉純真短期大学研究論文集第17号(2025年6月3日)
4.信頼できる人や医療機関に相談する
保育士が心の不調を感じたときは、一人で抱え込まずに誰かに相談しましょう。家族や友人、同僚など、話しやすい相手に気持ちを打ち明けるだけで心が軽くなる場合もあります。職場に相談しにくい場合は、厚生労働省の「相談窓口案内」に相談機関や窓口の一覧が掲載されているので、参考にしてみてください。
症状がつらいときは、「そのうち治る」と我慢せず、心療内科や精神科の受診も検討しましょう。深刻化すると仕事や生活への影響が大きくなってしまいます。初診では、いつからどのような症状が出ているのか、どのようなことで困っているのかを医師に詳しく伝えることが大切です。
出典
厚生労働省「相談窓口案内」(2025年6月3日)
5.無理をせず働きやすい職場に転職する
職場環境に悩みがある場合は、転職することでストレスが和らぐかもしれません。実際に、齊藤友子「A県の保育所、幼稚園、認定こども園で働く保育従事者の職場のストレス要因・勤務状況と精神健康との関連(p.14)」によると、仕事への「適性」や「満足度」が、保育従事者の精神的な不調を防ぐ要素になっている可能性が示されています。
職場の状況によっては、「自分が辞めたら迷惑をかけてしまう」といった後ろめたさを感じることがあるかもしれませんが、自身の健康を最優先に考えることが大切です。保育士資格は、企業内保育や病児保育、保育関連の事務職など、さまざまな場面で活かせます。どのような働き方が自分に合うのか判断しづらい場合は、保育士専門の転職エージェントに相談してみるのも1つの方法といえるでしょう。
出典
齊藤友子「A県の保育所、幼稚園、認定こども園で働く保育従事者の職場のストレス要因・勤務状況と精神健康との関連」日本社会福祉マネジメント学会誌/3巻 (2023)(2025年6月3日)
保育士がうつ病を発症した際の対処法
ここでは、保育士がうつ病を発症したときの対処法について解説します。無理をして働き続けると悪化する可能性があるため、できるだけ早く対応することが早期回復につながるでしょう。
うつ病の治療方法には3つの柱がある
うつ病の治療は、「休養」「薬物療法」「精神療法・カウンセリング」の3つを中心に行われます。前述のとおり、うつ病は脳のエネルギーが欠乏している状態のため、脳をしっかり休ませることが治療の基本です。
うつ病の回復には、ある程度の時間が必要となります。症状の重さや回復のペースは保育士によって異なるので、状況に応じて仕事を休み、治療に専念する選択が求められる場合もあるでしょう。
厚生労働省の「3うつ病の治療と予後」によると、うつ病の多くは適切な治療を続けることで、「寛解」と呼ばれる元気な状態まで回復できるとされています。不安を感じることもあるかもしれませんが、医師と相談しながら焦らずに治療を進めていきましょう。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
すぐに退職を決めず休職を検討する
保育士がうつ病を発症した際は、すぐに職場を辞めるのではなく、休職制度を利用して心身を休めることをおすすめします。精神的に不調な状態では冷静な判断が難しくなることもあるため、退職といった大きな決断は体調が落ち着いてから行うほうが安心です。
勤務先の健康保険に加入している保育士であれば、条件を満たすことで「傷病手当金」を受け取れる可能性もあります。一定期間は収入を得ながら療養できるため、不安を和らげながら回復に専念できるでしょう。休職を申し出る際は医師の診断書が必要です。事前に話す内容を整理しておくと、園長や主任に状況を説明しやすくなるかもしれません。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
復職後は正社員以外の働き方も視野に入れる
保育士がうつ病から回復して復職する際は、正社員にこだわらず、パートやアルバイトなどの雇用形態に切り替えるのも1つの方法です。職場に「試し出勤制度(リハビリ出勤制度)」があれば、徐々に仕事の感覚を取り戻していくこともできます。
また、保育補助のように責任の範囲が限られた業務から始めたり、小規模の保育園で働いたりすると精神的な負担を感じにくいかもしれません。うつ病は回復後も再発のリスクがあるため、主治医や上司とよく相談しながら自分のペースに合った働き方を心掛けましょう。
保育士のうつ病に関してよくある質問
ここでは、保育士のうつ病に関してよくある質問を紹介します。
保育士がうつ病かどうかチェックできるサイトはありますか?
うつ病のセルフチェックができるサイトはいくつかあります。厚生労働省の「ご存知ですか?うつ病」では、うつ病の主なサインが紹介されているので、あわせて参考にしてみてください。ただし、セルフチェックはあくまで目安にすぎず、正確な診断ができるものではありません。たとえ結果に問題がなくても、不安な症状があるときは、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
出典
厚生労働省「ご存知ですか?うつ病」(2025年6月3日)
保育士がうつ病の診断書をもらう方法を教えてください
保育士がうつ病の診断書をもらうためには、心療内科や精神科を受診し、医師の診断を受ける必要があります。初診で診断書が発行される場合もありますが、症状が診断基準に該当しない場合は、別の病名で診断書が出されたり、何度か通院を重ねたうえで診断が確定したりすることもあるでしょう。
うつ病と適応障害の症状の違いは何ですか?
厚生労働省「適応障害」によると、適応障害とは、環境の変化によるストレスが本人の適応力を上回ったときに現れる情緒面や行動面の不調とされています。適応障害の特徴は、原因となるストレスから離れると症状が改善しやすい点です。一方で、うつ病は問題が解決しても完治にはある程度の時間が必要な傾向にあります。適応障害を放置するとうつ病へと進行してしまう場合もあるため、早めに医療機関に相談することが大切です。
出典
厚生労働省「適応障害」(2025年6月3日)
うつ病になった保育士は職場にとって迷惑ですか?
うつ病は誰にでも起こりうる病気であり、職場環境が発症要因の1つになる場合もあるため、自分を責める必要はありません。一時的にほかのスタッフの負担が増えることもあるかもしれませんが、無理をして働き続けるとより長期間の休職が必要になる可能性もあります。罪悪感を抱き過ぎず、しっかりと休養に専念することが大切です。
まとめ
保育士の仕事は、長時間労働や業務の多さなどによって心と体のバランスを崩しやすい傾向にあります。うつ病を予防するためには、規則正しい生活を心掛け、しっかり休養を取ること、そして不調のサインに早めに気づくことが大切です。もし今の職場がストレスの原因になっていると感じたら、エネルギーを使い果たしてしまう前に、休職や転職を検討するのも1つの選択です。「休むと周りに迷惑がかかるかも…」と思い過ぎず、自分の心と体を最優先に考えてくださいね。
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執筆者

「レバウェル保育士」編集部
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