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モンテッソーリ教育とは?考え方やメリット、実践する保育園の特徴

保育士の中には、モンテッソーリ教育について関心がある方もいるのではないでしょうか。基本理念や歴史はもちろん、「具体的な内容や方法は?」「どのような効果があるの?」など、さまざまな疑問が頭に浮かぶかもしれません。この記事では、モンテッソーリ教育の概要や、メリット・デメリット、実践園の特徴について解説します。保育士が実践園を選ぶコツも紹介しますので、ぜひ就職・転職時の参考にしてください。
目次
モンテッソーリ教育とは
モンテッソーリ教育とは、子どもの自己教育力を引き出すために、適切な環境を整える教育法です。モンテッソーリ教育を受けたことで知られる有名人も多く、世界中で広く知られた教育法といえるでしょう。まずは、モンテッソーリ教育の歴史や基本的な考え方について見ていきます。
モンテッソーリ教育の歴史
モンテッソーリ教育は、ローマ大学で初の女性医学博士となったマリア・モンテッソーリによって考案された教育法です。彼女はローマ大学を卒業後、障害のある子どもの治療教育に関わり、その後、保育施設「子どもの家」の教育担当を務めました。そこでの実践を通じて確立されたのが「モンテッソーリ教育法」です。
現在、この教育法は世界中に広まり、日本を含む110以上の国に実践園があるといわれています。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「マリア・モンテッソーリについて」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育の考え方
モンテッソーリ教育では、教え込むのではなく、子どもを科学的に観察し環境を整えることを基本とします。日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」によると、モンテッソーリ教育の基本的な考え方について、以下のように示されています。
引用テキスト
その基本的な考え方は「子どもには生来、自立・発達していこうとする力(自己教育力)があり、その力が発揮されるためには発達に見合った環境(物的環境・人的環境)」が必要である」というものです。
引用:日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」
子どもは自分の気持ちや考えを大人のようにうまく伝えることはできません。そのため、周りの大人は子どもの行動をよく観察し、何を求めているのかを理解する必要があります。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育では何をする?
ここでは、モンテッソーリ教育の3つのポイントを紹介します。モンテッソーリ教育の本質は、子どもの中にある「自分を伸ばす力」を信じること。そのため、周囲の大人は以下の役割を通して、子どもたちの自然な発達を支援します。
発達段階に応じた環境を用意する
モンテッソーリ教育は、前述のように、「子どもは自己教育力を活かして自分で学び、成長していく」というものです。そのため、周囲の大人は、子どもの能力を最大限引き出せるように子どもの行動を注意深く観察し、発達段階に応じて適切な環境を整えます。
子どもの自主性を尊重する
モンテッソーリ教育では、子どもが自分で判断し、自己選択できるようサポートすることが大切とされています。そのため、周囲の大人は子どもを全面的に受け入れ、子どもが行動の意味や善悪を自分で合理的に判断できるように事実を伝えて見守ります。
これは決して放任することではなく、「価値観を押し付ける」「叱ったり過度に褒めたりする」といったことを避けるという意味です。
子どもの意欲や関心を見極める
子どもの自己教育力を引き出すためには、子ども自身が「やりたい」と感じる内発的な動機づけが重要です。外発的な動機づけでは、子どもの中から自然に湧き上がる興味や好奇心を育むことはできません。そのため、周囲の大人は、子どもの意欲や関心をしっかりと見極め、物の使い方を示して物的環境とのつながりを作ります。
モンテッソーリ教育と敏感期
モンテッソーリ教育では、成長に必要なことに対して強い感受性を抱き、難なく吸収できる時期のことを「敏感期」と呼んでいます。敏感期の大半は乳幼児期の0〜6歳に集中すると考えられ、以下のとおり0歳〜3歳を前期、3歳〜6歳を後期として、2つの段階に分けて教育が行われます。
0歳~3歳(前期) |
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3歳~6歳(後期) |
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参照:日本モンテッソーリ教育綜合研究所「乳幼児期(0歳~6歳)のモンテッソーリ教育」
人間にとってこの敏感期は、一生で一度の非常に重要な時期とされています。そのため、モンテッソーリ教育に携わる大人は、敏感期の特性を深く理解しておかなければなりません。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「乳幼児期(0歳~6歳)のモンテッソーリ教育」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育の5つの分野と教具
モンテッソーリ教育は、主に5つの教育分野で構成されています。また、発達を促進するために多くの教具が用意されているのも、この教育方法の特徴的な点です。以下で詳しく見ていきましょう。
日常生活の練習
日常生活の練習とは、生活に必要な動作を通して、環境への適応力を養う教育分野のことを指します。子どもサイズに整えられた生活用具を用いて、掃除や洗濯、食事などを実践し、自分の体をコントロールする能力を身に付けるのが特徴です。挨拶や返事といった社交的な振る舞いも含めて生きる力を磨いていきます。
感覚教育
感覚教育とは、子どもの五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を洗練させる教育分野のことを指します。円柱さしやピンクタワー、色板といった感覚教具を用いて感覚の発達を促すのが特徴です。感覚教具には、「対にする」「段階づける」「分類する」というように一つひとつ目的があり、色や形、サイズや素材などに工夫が凝らされています。
言語教育
言語教育とは、文字の読み書きといった言語習得を行う教育分野のことを指します。五十音並べや砂文字板といった教具を通して、楽しみながら語彙を豊かにしていくのが特徴です。また、日常生活の練習や感覚教育によって目や手の能力を発達させ、文字がスムーズに書けるような工夫もされています。
算数教育
算数教育とは、数的概念や数学的思考を身に着ける教育分野のことを指します。モンテッソーリ教育では、ただ単に数を唱えたり解いたりするのではなく、金ビーズや切手あそびといった教具に実際に触れながら、具体から抽象への理解を促し思考の土台を作るのが特徴です。
文化教育
文化教育とは、小学校の社会科や理科に相当する幅広い教育分野のことを指します。上記の4分野を統合した総合学習として、世界地図や動植物の図鑑といった教具を用いながら、子どもの好奇心に応じます。宇宙や太陽系、地球といった大きな視点から始め、日本の地方や都道府県などより細かな部分に焦点を当てることで、知的好奇心が刺激されていきます。
モンテッソーリ教育のメリット
ここでは、世界中で支持されているモンテッソーリ教育について、どのようなメリットがあるのかを見ていきます。子ども主体の教育は、子どもたちの成長にどのような影響を与えるのでしょう。
集中力や情緒の発達につながる
モンテッソーリ教育では、子どもが自分のやりたいことに思う存分取り組むことを大切にしています。適切な環境が整うことで、子どもは夢中になって活動し、自然に集中力を高めるのです。また、自分の欲求が満たされ、周りから受け入れられる安心感を得ることで、自己肯定感の向上や情緒の発達にもつながると考えられています。
選択する力や自主性が育まれる
日本モンテッソーリ教育綜合研究所の「モンテッソーリ教育とは」によると、モンテッソーリ教育の目的について以下のように示されています。
引用テキスト
モンテッソーリ教育の目的は、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことです。
引用:日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」
そのため、モンテッソーリ教育では、周囲の大人が強制や指示をしたり、できないと決めつけたりすることはありません。可能な限り本人の気持ちを尊重することで、子どもたちは自由に選択し、自ら問題解決する自主性を身に付けるようになります。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育のデメリット
モンテッソーリ教育にはメリットが多い一方で、デメリットも存在します。ただし、これらのデメリットは、教育方法自体の問題というよりも、海外と日本の学校教育のスタイルや立地環境の違いによって生じる課題といえるでしょう。以下で詳しく見ていきます。
協調性が薄れる可能性がある
国内のモンテッソーリ教育では、自立心が育まれる一方で、協調性が不足したり、集団行動に対して苦手意識を持ったりするという見方もあります。モンテッソーリ教育にも協調性を育む機会はありますが、日本の義務教育では集団活動が主流であるため、「協調性が足りない」と感じられることもあるようです。
とはいえ、決して自己中心的な性格というわけではないため、一般的には時間が経つにつれて自然に順応していくと考えられます。
子どもによっては物足りない可能性がある
国内のモンテッソーリ教育の実践園では、一般的な保育園に比べて運動の時間が少ない傾向があります。モンテッソーリ教育では園の敷地が十分に広いことが望ましいとされていますが、国内ではそれが難しい場合もあります。そのため、活発に体を動かしたい子どもにとっては、静かな作業の時間が窮屈に感じられることもあるようです。
しかし、施設によっては屋外の活動をしっかりと確保しているところもあり、外遊びの多さは園によって異なります。
モンテッソーリ教育を実践する保育園の3つの特徴
モンテッソーリ教育の実践園には、共通する3つの特徴があります。モンテッソーリ教育の具体的なやり方を知りたいという方は、以下のポイントをご覧ください。
1.縦割りクラスを採用している
モンテッソーリ教育は、縦割りクラス編成が基本です。異年齢間の保育を通して子どもたちは縦のつながりを築き、社会性を育みます。年長児は年少児のお手本となり、自己肯定感を高めたり、人の役に立つ喜びを感じたりします。一方、年少児は年長児への憧れや信頼を抱くようになり、成長への意欲を高めます。
このように、縦割りクラスでは相手の気持ちを考える力を養うだけでなく、お互いに良い影響を与え合う効果が期待されます。
2.「お仕事の時間」を実施している
モンテッソーリ教育では、自分の興味のある教具に集中して取り組む「お仕事の時間」が設けられています。周りの大人は、子どもが取り組んでいることを途中で中断したり、必要以上に手を貸したりすることはありません。なぜなら、自分の意思で最後までやり遂げることが満足感や達成感につながると考えられているためです。
子どもたちは、自分のペースで納得いくまでお仕事を繰り返すことで、自分自身を成長させていきます。
3.年間行事は控えめな傾向にある
モンテッソーリ教育の実践園では、一般的な保育園に比べて年間行事が控えめな傾向にあります。運動会や遠足、クリスマス会などの大きなイベントは行いますが、年間を通して行事に使う時間は比較的少なめです。モンテッソーリ教育では、行事の練習に多くの時間を費やすのではなく、日常生活をできる限り安定させることを大切にしています。
保育士がモンテッソーリ教育の保育園を選ぶコツ
保育士の中には、モンテッソーリ教育の実践園で働きたいと考えている方もいるでしょう。しかし、「どのように探せば良いのか」「何を基準に選ぶべきか」といったように迷うこともあるかもしれません。就職・転職活動を行う際は、以下のコツを参考にしてみてください。
関連団体の付属園や実践園のリストを確認する
熟練した指導者の元で、質の高いモンテッソーリ教育に携わりたい場合は、関連団体の付属園を選ぶのがおすすめです。
たとえば、日本モンテッソーリ教育綜合研究所や東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンターには、それぞれに付属園が設けられています。これらの団体はモンテッソーリ教育の国際的組織から公認を受けているため、国際水準の教育に触れたい保育士に適しているでしょう。
また、居住地を基準に実践園を探す場合は、日本モンテッソーリ教育綜合研究所の「モンテッソーリ教育実施園リスト」を参考にするのも手です。2024年4月現在のデータのため具体的な実施状況は確認が必要ですが、全国の実践園を把握するのに役立つでしょう。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育とは」(2025年4月9日)
職場見学で施設の環境を確かめる
国内には多くの実践園がありますが、モンテッソーリ教育の取り入れ方は施設によって異なります。そのため、職場見学を通じて、人的環境や物的環境が適切に整っているかを確認することも重要です。具体的には、以下のようなポイントをチェックすると良いでしょう。
人的環境 |
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物的環境 |
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スタッフの様子を観察する際には、日本モンテッソーリ教育綜合研究所の「モンテッソーリ教育の基本的な考え方」に示されている「モンテッソーリ教師の実践上の心得12条」と照らし合わせると、判断がしやすくなるかもしれません。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所「モンテッソーリ教育の基本的な考え方」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育に関して保育士からよくある質問
ここでは、モンテッソーリ教育に関して保育士からよくある質問をご紹介します。
モンテッソーリ教育とは簡単にいうとどのような教育法ですか?
モンテッソーリ教育とは、マリア・モンテッソーリによって考案された、子どもが主体の教育法です。この教育法では、子どもに自己教育力が備わっていることを前提として、その力が十分に発揮できるように適切な環境を整備します。詳しくは、この記事の「モンテッソーリ教育とは」の部分をご覧ください。
モンテッソーリ教育で考案されたおもちゃには何がありますか?
モンテッソーリ教育では、子どもの発達段階に合わせて使う道具のことを「教具」と呼びます。代表的な教具として、感覚教育では「円柱さし」や「ピンクタワー」、言語教育では「五十音並べ」「砂文字板」などがあります。また、教具とは別にモンテッソーリ教育に基づいた家庭用のおもちゃも多く販売されているので、気になる方はチェックしても良いでしょう。
モンテッソーリ教育を受けるとどんな子に育ちますか?
モンテッソーリ教育では、「自立している」「有能である」「責任感や他人への思いやりがある」などの特性を持つ人間を育てることを教育の目的としています。そのため、モンテッソーリ教育を受けることで、子どもたちはこうした人物像に近づくと考えられます。
出典
日本モンテッソーリ教育綜合研究所の「モンテッソーリ教育とは」(2025年4月9日)
モンテッソーリ教育を実践するには資格が必要ですか?
モンテッソーリの保育園の中には、モンテッソーリ教育の資格がなくても働ける場所はあります。ただし、資格を持っていると採用で優遇されやすくなるでしょう。モンテッソーリ教育には国際資格や国内資格があるため、希望する保育園が推奨している資格をあらかじめ確認しておくと安心です。
まとめ
モンテッソーリ教育は、子どもの自己教育力を引き出すために適切な環境を整え、子どもが自ら学び成長できるよう支援する教育法です。モンテッソーリ教育を実践する保育園では、一般的に縦割りクラスを採用し、「お仕事の時間」を実施しています。実践園で働いてみたいとお考えの方は、関連団体の付属園や実践園リストを確認し、自分の希望条件に合った職場を探すと良いでしょう。職場見学も行い、人的環境や物的環境が適切に整っているかを入念にチェックするようにしてくださいね。
保育業界専門の転職支援サービスであるレバウェル保育士では、モンテッソーリ教育の実践園で実際に働く保育士の声をお伝えします。また、キャリアアドバイザーがあなたにぴったりの実践園をご紹介するので、1人での転職活動に不安がある方もスムーズに進められますよ。ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者

「レバウェル保育士」編集部
保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。