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インクルーシブ保育とは?保育士のメリット・デメリットや統合保育との違い

手を繋いだ人形が立った地球の置物を持つ子供の手の画像

保育士のなかには、「インクルーシブ保育」に関心を抱いている方もいるのではないでしょうか。「通常の保育とどう違うの?」「実践してみたいけれど難しそう」など、さまざまな疑問や不安があるかもしれません。 この記事では、インクルーシブ保育の概要や統合保育との違い、国の取り組みについて詳しく解説。ほかにも、子どもと保育士、それぞれの視点から見たメリット・デメリットも紹介します。多様性を認め合うインクルーシブ保育とは、どのようなものなのか、ぜひチェックしてください。

この記事を書いた人

A

「レバウェル保育士」編集部

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インクルーシブ保育とは

インクルーシブ保育とは障がいの有無や年齢、国籍に関わらず、同じ空間で保育を行うことです。インクルーシブ(inclusive)には、日本語で「包括的な」「すべて含んだ」という意味があり、その名のとおり、隔てる壁をなくした包括的な保育を表します。

共生社会を実現するためには、「自分とは異なる特性や価値観を持つ人」がいることに気づき、多様な在り方を認め合う姿勢が大切です。インクルーシブ保育は、特性や発達の違いで線引きをしない新しい保育スタイルとして、近年注目を集めています。

出典

文部科学省「1.共生社会の形成に向けて新規タブリンク」(2025年9月25日)

インクルーシブ保育と統合保育の違い

インクルーシブ保育は多様性、統合保育は同質性を前提にしているという違いがあります。どちらの保育方法も、障がいのある子どもとない子どもが同じ場所で過ごすという面では同じなため、疑問を抱く方もいるかもしれません。下記は、インクルーシブ保育と統合保育の違いをまとめたものです。

インクルーシブ保育 統合保育
障がいの有無に関わらず、子どもたちの多様性を尊重する体制 障がいの有無を認識し、障がいのある子どもを導き入れる体制

統合保育は、障がいのある子どもに配慮し、同じ体験を共有できるように環境を整える同質性を前提とした保育方法です。それに対して、インクルーシブ保育は、障がいの有無に関わらず、子ども一人ひとりに適切な支援を行う多様性を前提とした保育方法といえるでしょう。

インクルーシブ保育の現状と国の取り組み

これまで日本の教育現場は、障がいの有無で教育環境を分ける「分離教育」が一般的でした。しかし、既存の分離教育では、同じ場で一緒に学ぶ共生社会の方向性とは異なり、偏見や先入観を招く恐れがあります。そのため、諸外国の動向に合わせて、2012年に文部科学省より「インクルーシブ教育システムの構築」が通達され、取り組みが推進されてきました。

インクルーシブ保育は、この理念や体制を保育現場に導入したものです。2023年4月1日には「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令」が施行され、保育園と児童発達支援事業所の保育士が一緒に保育・療育を行えるよう、設備運営基準の見直しも行われています。

インクルーシブ保育の園に通う子どものメリット

インクルーシブ保育はさまざまな子どもと触れ合うことで、多様性を尊重する心を育める可能性があるなどのメリットがあります。新たな保育環境が子どもたちにどのようなメリットをもたらすのか、以下で見ていきましょう。

多様性を尊重する心が育まれる

インクルーシブ保育では、幼少期から多様な背景を理解することで「社会にはいろいろな人がいる」という価値観を育むのがねらいです。人にはさまざまな背景があり、その違いこそが自然なのだと感じられるようになるでしょう。お互いに大切な存在だと認めて思いやりの心が育まれるのはもちろん、自尊心の向上にもつながる可能性があります。

発達段階や境遇の違う子どもと触れ合える

インクルーシブ保育では、発達段階や境遇の違う子どもと触れ合うなかで、他者と協働する力を育むのが目的です。一緒に過ごす子どものなかには、外国籍で言葉が通じなかったり、多様な特性があったり、異年齢保育(縦割り保育)で年齢が違ったりと、さまざまな子どもたちがいます。仲間との関わりを通して身に付く対応力は、これからの社会を豊かに生きる力となるでしょう。

インクルーシブ保育の園に通う子どものデメリット

インクルーシブ保育には、人と比べて劣等感を抱いたり、周囲と衝突する可能性があるなどのデメリットがあります。下記で詳しく解説するので、見ていきましょう。

周りと比べて劣等感を抱く可能性がある

発達段階や境遇の違う子どもと触れ合えば、自ずと自分との違いに戸惑うこともあるでしょう。その際、周囲のサポートが間に合わないと劣等感を抱いてしまう可能性があります。インクルーシブ保育では、すべての子どもたちが自分の存在を肯定的に捉えられるような正しい援助が欠かせません。

周囲の子どもと衝突する可能性がある

子どもたちがお互いの違いを受け入れるには、ある程度の時間がかかります。そのため、違いを受け入れられるようになるまでは衝突したり、すれ違ったり、感情をぶつけ合ったりする可能性があります。子どもたちはそれらの経験を通して、自分をコントロールする力や自分の思いを伝える力を育めるようになるでしょう。

インクルーシブ保育を実践する保育士のやりがい

インクルーシブ保育を実践する保育士のやりがいには、大きく分けて「専門性の向上」と「共生社会の実現への寄与」の2点が挙げられます。以下で詳細を見ていきましょう。

幅広い保育スキルや専門知識を身に付けられる

インクルーシブ保育では、多様な発達段階や背景を持つ子どもがいるため、幅広い保育スキルが身に付く可能性があります。子ども一人ひとりに合う保育を模索するなかで、資格を取得したり、講習を受講したりすると、専門知識を身に付けることができる場合も。インクルーシブ保育に携わると、保育士としてのスキルアップにつながる可能性があるでしょう。

インクルーシブな社会の実現に貢献できる

インクルーシブ保育を実践することにより、共生社会の実現に貢献できる場合もあります。次代を担う子どもに対する支援は、いわばインクルーシブな社会の基礎作りです。保育士として前例を作れば、インクルーシブ保育を普及させる後押しにもなるでしょう。

出典

文部科学省「1.共生社会の形成に向けて新規タブリンク」(2025年9月26日)

インクルーシブ保育を実践する保育士の大変なこと

インクルーシブ保育を実施する場合、保育士一人ひとりにかかる負担が大きくなる可能性もあります。実践にはどのような課題があるのか以下で解説します。

発達段階に応じて個別に支援する必要がある

インクルーシブ保育では、子どもたちの発達段階や個性に応じた丁寧な支援が必要です。通常の保育に比べて、より目配り・気配りが求められるため、ストレスや疲れを感じることもあるでしょう。ときには集団で保育することの難しさに直面したり、保育士としての自信を見失ったりすることもあるかもしれません。

課題を解決するための参考事例が限られている

インクルーシブ保育は実施されてから歴史が浅く、参考事例も限られています。そのため、支援に携わる保育士は適宜専門家の協力を得ながら、アプローチ方法を模索することになるでしょう。発達段階によっては、カリキュラムの満足度に差が出る可能性があります。また、外国にルーツを持つ子どもの対応においては、文化的な背景の違いを本や研修などで学び、理解する必要があるでしょう。

十分な説明で保護者の理解を得る必要がある

インクルーシブ保育を実践するには、保護者からの理解や協力が欠かせません。保護者のなかには、インクルーシブ保育を前向きに受け止める人もいれば、不安に思う人もいるでしょう。そのため、細かく丁寧に説明・報告するのはもちろん、保護者同士で情報交換を行える機会を設けるなど、保護者からの信頼を築くことが大切です。

インクルーシブ保育を実践する保育園で保育士が働くには

保育士がインクルーシブ保育の園で働くには、園見学を行い、求められる知識や実践内容、職員配置や支援体制を把握することが重要です。インクルーシブ保育には決まったやり方がないため、その都度園全体で情報を共有し、柔軟に保育を展開しなければなりません。そのため、園の体制が不十分だと、保育士は悩みを抱え込んでしまう可能性があります。

職場としてインクルーシブ保育を実施している園を選ぶ際は、周りの職員や保護者との連携がしっかりと取れているか、また職員同士がお互いに高め合える環境であるかを十分に確認しましょう。

「インクルーシブ保育とは?」と疑問を持つ保育士によくある質問

ここでは、「インクルーシブ保育とは?」と疑問を持つ保育士によくある質問を紹介します。ぜひ参考にしてください。

インクルーシブ保育とは簡単にいうとどのような支援体制ですか?

インクルーシブ保育とは、簡単にいうと「特性や発達の違いで線引きをしない包括的な保育」を指します。インクルーシブ保育は障がいの有無や年齢、国籍に関わらず、同じ空間で保育を行います。そのため、多様性を前提とした支援体制である点が特徴です。

インクルーシブ保育で大切なことは何ですか?

インクルーシブ保育で大切なことは、保育士が専門性を向上させ、子どもたち一人ひとりに必要なサポートを提供することです。また、保護者からの広い理解や協力を得るために信頼関係を築く必要もあるでしょう。

インクルーシブ保育ではどのような遊びを行いますか?

インクルーシブ保育の遊びは園によって異なりますが、運動遊びや表現遊びなど、好きな遊びを自由に選べる傾向にあります。とくに、異年齢保育(縦割り保育)では年齢や能力も異なるため、環境を整えたり、個々に応じた支援や援助を行ったりと保育士として柔軟な対応が必要になるでしょう。

インクルーシブ保育の実践例を教えてください

愛知県稲沢市の保育園では、2024年度からインクルーシブ保育を目指した取り組みが始まっています。対象園は公立・私立を問わないすべての園です。ゆとりのある保育環境の整備や、保育支援者・保育補助者の配置によってきめ細やかな体制作りが進められています。

出典

まとめ

インクルーシブ保育とは、障がいの有無や年齢、国籍に関わらず、同じ空間で保育を行う形態のことを指します。インクルーシブ保育には「多様性を尊重する心が育まれる」「発達段階や境遇の違う子どもと触れ合える」など、さまざまなメリットがあります。
一方では、克服すべき多くの課題があるのも現状です。そのため、保育士には専門知識や技術を磨くのはもちろん、職員や専門機関と連携して、創意工夫を行うことが求められます。

「インクルーシブ保育の園で働いてみたい」「希望条件に合った保育園を知りたい」という方は、ぜひレバウェル保育士にご相談ください。レバウェル保育士では、取材訪問を通じて、支援体制や職場の雰囲気といった情報を細かく収集しています。地域に特化したプロのアドバイザーがあなたの転職をトータルサポートしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆者

A

「レバウェル保育士」編集部

保育士・幼稚園教諭専門の転職エージェント「レバウェル保育士」が運営するメディア。現役の保育士とこれから保育士を目指す方に向けて、仕事や転職に役立つ情報をお届けします。記事を通して不安や悩みが少しでも解消する状態を目指し、皆さんのキャリア選択を支援します。

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